2018年1月4日木曜日

1/1 第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会 決勝 vs 横浜F・マリノス @ 埼玉スタジアム2002

天皇杯 決勝
2018年1月1日(月)14:42KO 埼玉

スタジアム埼玉スタジアム2002主審東城 穣
入場者数42,029人副審相樂 亨、山内 宏志
天候 / 気温 / 湿度晴れ / 12.6℃ / 30%第4の審判員宮島 一代
追加副審荒木 友輔、岡部 拓人
スターティングメンバー
セレッソ大阪セレッソ大阪
 
横浜F・マリノス横浜F・マリノス
 
  • 監督
  • 尹 晶煥
 
  • 監督
  • エリク モンバエルツ
セレッソ大阪セレッソ大阪
横浜F・マリノス横浜F・マリノス
  • ソウザ
    秋山 大地
    119'
  • 106'
    天野 純
    前田 直輝
  • 105+1'
    ウーゴ ヴィエイラ
  • 水沼 宏太
    95'
  • リカルド サントス
    90'
  • 81'
    マルティノス
  • 柿谷 曜一朗
    リカルド サントス
    80'
  • 丸橋 祐介
    田中 裕介
    77'
  • 松田 陸
    74'
  • 70'
    ダビド バブンスキー
    ウーゴ ヴィエイラ
  • 山村 和也
    65'
  • ソウザ
    48'
  • 45+1'
    山中 亮輔
    遠藤 渓太
  • 8'
    伊藤 翔
今回対戦今季平均
データ項目セレッソ大阪横浜F・マリノスセレッソ大阪横浜F・マリノス
FK20191718
CK10645
PK0000
シュート16151016
警告/退場3/02/02/02/0

<監督・選手コメント>

セレッソ大阪 尹晶煥監督
横浜F・マリノス エリク・モンバエルツ監督

セレッソ大阪 水沼選手、マテイ・ヨニッチ選手、キム・ジンヒョン選手、秋山選手、山村選手、ソウザ選手
セレッソ大阪 山口選手、丸橋選手、木本選手(セレッソ大阪公式)

横浜F・マリノス 中澤選手、天野選手
横浜F・マリノス 中町選手、飯倉選手(横浜F・マリノス公式)


最後まで勝ち残った2チームによる第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝、埼玉スタジアム2002で行われたセレッソ大阪対横浜F・マリノスの一戦は、延長戦の末2-1でセレッソ大阪が勝利。ヤンマーディーゼルサッカー部として優勝した1975年1月1日以来43年ぶりの優勝を決め、YBCルヴァンカップに続きセレッソ大阪として2つめのタイトルを獲得。昇格初年度となる2017年シーズンに2冠を達成した。

■34年ぶりのカード

2017年11月4日YBCルヴァンカップ優勝でJリーグが開幕して以降初タイトルを獲得したセレッソ大阪。天皇杯でも準決勝で延長戦の末ヴィッセル神戸を下し2004年1月1日以来14年ぶりの決勝進出を果たした。
決勝の対戦相手は横浜F・マリノス。準決勝ではこちらも延長の末に柏レイソルを下し、優勝した2014年1月1日以来4年ぶりの決勝進出を果たしている。

実はこの2クラブの間には深い関係がある。
1972年に設立された横浜F・マリノスの前身である日産自動車サッカー部。大きな転機となったのは1974年に日本初のプロ監督として、JSLの強豪ヤンマーディーゼルサッカー部OBでコーチを務めていた加茂周氏を招聘したことだった。ヤンマーディーゼルサッカー部とはもちろんセレッソ大阪の前身チームである。
日産自動車サッカー部は、この加茂周氏の監督就任をきっかけに、神奈川県リーグからJSL2部、1部と徐々にカテゴリーを上げていくことになる。
そして日産自動車サッカー部にとってクラブ史上初のタイトル獲得となったのが、加茂監督11年目となる1984年1月1日の第63回天皇杯。対戦相手は加茂監督の古巣ヤンマーディーゼルサッカー部だった。
日産自動車サッカー部は、ヤンマーディーゼルサッカー部から来た加茂氏が率い、ヤンマーディーゼルサッカー部に勝利し天皇杯を獲得したところから、名門への道を歩み始めた。

そして2018年1月1日。この両チームは「セレッソ大阪」「横浜F・マリノス」と名前を変え34年ぶりに再び天皇杯決勝の舞台で顔を合わせることとなった。

セレッソのメンバーは、リーグ戦第33節から準決勝までを欠場していた山口が復帰。先発メンバーは、柿谷と山村の2トップに、水沼と清武の両サイド。ボランチには山口とソウザ、最終ラインには松田、ヨニッチ、木本、丸橋と並び、ゴールキーパーはキム・ジンヒョン。
ベンチには準決勝は出場停止だったリカルド・サントスと酒本が入っている。

マリノスのメンバーは、準決勝で負傷した扇原が欠場となり、今週の練習で途中離脱していたウーゴ・ヴィエイラもベンチスタート。先発メンバーは、ワントップに伊藤、2列目にはマルティノス、バブンスキー、山中。ボランチには中町と天野、最終ラインには松原、中澤、パク・ジョンス、下平と並び、ゴールキーパーには飯倉。
ベンチにはウーゴ・ヴィエイラ、遠藤渓太、前田、喜田らが入っている。

■両翼を持つ横浜F・マリノスの4-3-3

マリノスのフォーメーションは4-2-3-1と書かれる事が一般的で、実際に今回も4-2-3-1で紹介しているが、実際にはほとんどの試合で特にボールを持っている時はこの並びになっていない。
マリノスの4-3-3
実際のマリノスの布陣は、中町がアンカー、その前に天野とバブンスキーが並ぶ4-3-3。この試合でもキックオフからマリノスはこの布陣を採用していた。
4-3-3の布陣を敷くマリノスで特徴的なのは攻撃的な両サイドの選手のポジション。Jリーグでは攻撃時にSHがインサイドに入っていく形を取るチームが多く、例えばボールサイドのSHが外に開いたとしても逆サイドのSHは中に入ってくるという動きになっていることがほとんど。セレッソでも水沼は比較的サイドでプレーする傾向にあるが、それでも中に入ってその外側をSBが使うことも多い。
しかしマリノスはSHが常に高い位置で開いたポジションを取る。そのポジションはSHというよりもWGだ。

両サイドの高い位置でWGが開いたポジションをとるメリットは攻撃に横幅を作ること。マリノスは立ち上がりからこの幅を使った攻撃でセレッソ攻略を狙ってくる。
CBとSBの間へのクロス
幅を使って狙ってきたのはサイドからのクロスでアーリー気味にファーサイドのCBとSBの間を狙う形。
セレッソは4バックで守るので相手のサイドアタックの時はその4バックがボールサイドにスライドする。ボールサイドのSBは当然出ていくし、それに連動してCBもスライドする。今季のセレッソはここはきちんとスライドすることができるので守備の安定を手にしていた。
しかし逆サイドのSBは、普段ならここも全体に連動してスライドすることができるのだが、マリノスの場合は逆サイドのWGが安易に中に入ってくることが無いので通常通り絞ってしまうと、外側をフリーにしてしまう。それが嫌だからどうしても絞らない、絞っても加減する。
その結果この逆サイドのCBとSBの間がどうしても空いてしまう事になる。

そしてこのDFラインの間のスペースを使う方法といえば、もしかするとパッと思い浮かぶのはスルーパスなどのプレーかもしれないが、実は最も効果的なのがクロス。
スルーパスだと空いてしまったスペースに近い選手がボールと相手選手を同一視野に収めることはまだできるのだが、クロスだと少なくともニア側の選手はボールと相手選手を同一視野に収める事はまず無理。
なのでクロス攻撃における大切なものはは、クロスの精度や中に入る選手の高さ以上にDFラインをバラけさせることだったりする。

マリノスがこのクロスでファーサイドのCBとSBの間を狙っていたのはあきらかで、前半2分にマルティノスが右サイドを突破して入れたクロスもヒットしなかったものの1トップの伊藤はプルアウェイの動きでヨニッチの外側に回り込みシュートの一歩手前までに迫り、6分にはオフサイドになったものの、今度は左サイドから山中がアーリークロスを入れ、同じくプルアウェイの動きで木本の裏に回り込み伊藤が抜け出しかけている。

そして失点に繋がったのが3本目のクロス。
中盤の底にいる中町から左サイドの高い位置にいる山中へのロングボールは松田が跳ね返したものの、そのこぼれ球を天野が拾い下平へと繋いだことで下平がフリーに。ここからのクロスをプルアウェイの動きで木本の外側にまわった伊藤がコントロールで抜け出して、8分にマリノスが先制した。

プルアウェイの動きで木本は完全に伊藤を見失っていたので、アーリークロスに対する木本の身体の向きにも問題があるが、丸橋も外側にマルティノスがいるのでここを絞れなかったことにも問題がある。
しかしマリノスにしてみると、あきらかにそれを狙っていたのでしてやったりの先制点だろう。
失点の少し前にNHKの中継でも「マリノスのアーリークロスに対してボールへのアプローチを速くするように」との指示を尹晶煥監督が出しているとのレポートがあった様に、最初に2つアーリークロスを入れられた後はサイドで激しくボールホルダーへアプローチに行くことでクロスを上げさせないようにする工夫も見られていたが、この場面では松田が跳ね返したセカンドボールだったこと。そしてそれに対して左インサイドハーフの天野が前にでてこのセカンドボールを拾ったことで、下平に対してはアプローチに行ける状態を作れなかった。

プレビューでも書いたが、マリノスは自陣から長いボールを使って攻撃を組み立てるという形はほとんどなく、長いボールを使ってもサイドへ対角のボール。基本的には自陣でボールを繋ぎながらサイドのオープンスペースを作ってそこにボールをつけボールを運ぶ。
セレッソはこのマリノスのやり方を知っているので、敵陣からプレッシングをしかけた。
そしてマリノスはセレッソが敵陣からプレッシングをしかけることをわかって、マルティノスのスプリント、ドリブルに合わせて、アーリークロスで背後のスペースの、しかも両WGが幅を広げて、逆サイドのCBとSBの間を狙ってきた。

■マリノスの守備とセレッソが狙った中町の脇

マリノスにはここまで書いた攻撃の形だけでなく、守備でもこの試合に向けて準備してきたであろう形も見えた。
中盤の高い位置から守備を始めるマリノス
マリノスはセレッソがアウェイで1-4と完勝した前回対戦時に「下がりすぎた」という印象を持っていた様で、全体を下げないように、できるだけ高い位置で守備をしようという狙いがあった。
セレッソはビルドアップの時に形を変えるようなことはほとんどしない。CBの2人も、木本はまだボールを繋ぐ意識が高いし、ヨニッチもボールを繋げないわけではないが、積極的にビルドアップに絡んでいくようなこともなく、攻撃はCBからボールを受けたボランチやSBから始まる形がほとんどとなっている。
なので、このSBとボランチにボールが入ると4-3-3からそのまま4-1-4-1の様な形になってWGとインサイドハーフをぶつけて自由を与えない様にする。
CBがボールを持っている時やボランチがCB近くまで下がった時にはそこまで追いかけるような形は取らず、中央にグラウンダーの縦パスを入れさせないように中央に絞ったポジションを取るが、ハーフウェイライン辺りからボランチやSBにボールが入った時には確実にアプローチに行くことで、できるだけ前で守備をしようという狙いが見られた。

ここまで書いたマリノスが準備してきたであろう形を活かし、開始わずか8分でマリノスが先制したこの試合だが、一方的な試合という訳では全く無い。
マリノスが先制する前の6分にはセレッソも柿谷からの浮き球パスで清武が最終ラインの裏に抜け出し、飯倉にセーブされたものの清武が決定的な形でシュートを放っている。

この前半の立ち上がりからセレッソがチャンスを作っていた理由の1つは、高い位置からの守備で何度か実際にボールを獲れていたこともあるが、マリノスがインサイドハーフが前にでてアプローチをしかけに来た時にそこを外すことができれば、インサイドハーフの裏・アンカーの中町の両脇を使って攻める狙いを持っていたからだろう。
アンカー脇のスペースを狙う
特に清武がこの中町の両脇のスペースに入り込む形が頻繁に見られていたし、6分の清武のチャンスはまず清武が中町の脇に入りスルーし、そして同じく中町の脇に下がってきた柿谷がボールを受ける。そして柿谷が最終ラインの裏に浮き球のボールを落とし、そこに清武が走り込むという形だった。
ただ、このスペースは常にあるわけではなく、完全に押し込んでしまうとマリノスも中盤の選手が完全に戻りきってしまうのでスペースはなくなってしまう。なので攻撃に時間がかかってしまうとセレッソはミドルシュートぐらいしか手はなくなっていた。

また20分を過ぎた頃からはマリノスもセレッソの狙いを察して、天野が早めにボランチの位置に下がる様にして中町と天野でダブルボランチの関係になるようにもなっていた。
なのでセレッソは普段は丸橋、ソウザ、清武がいる左サイドでボールを持って右サイドに展開をするというパターンが多いのだが、天野が前に出ている状態で天野の裏から中町を動かして清武をバブンスキーの後ろでボールを持たせてそこからチャンスを作るという流れになっていたため、右サイド中よりからの攻撃が増えていた。

そんな中でもセレッソは何度かチャンスをつくろうと狙っていたが、こういう状況で早い判断を正確に下せるのが中澤。セレッソがチャンスを迎えようという場面でもポジション修正やカバーリングがとにかく速いので6分以降は決定的なチャンスは作らせてもらえなかった。
またセレッソの攻撃も中町脇を狙おうというのは見えていたが、それだけでなくもう少し背後などCBを動かす様な形も交えた方が良かったのではないかとも思う。

またマリノスの先制点以降は、セレッソがラインを高くする戦い方を続けていた分、右SBの松原や右に流れた中町らから縦のボールでマルティノスにセレッソのDFラインの背後を走らせるての折り返しや、これも同サイドで伊藤に裏を狙わせる形はあったが、先制点に繋がったようなアーリークロスで逆サイドのCBとSBの間を狙う様な形は少なくなった。
そうなったのはマルティノスと山中の動きの違いもあったのではないかと思う。
立ち上がり2分のマルティノスのクロスに対しては外に張っていた山中だったが、その後の場面ではマルティノスのクロスのタイミングで斜めにボックス内に侵入しようという動きが増えた。
ファーサイドで合わすためには有効なこの動きだが、山中が逆サイドから中に入ってしまうと松田は2分の場面とは異なり気兼ねなくボールサイドにスライドすることができる。なので伊藤がプルアウェイでヨニッチの外に回るスペースも無くなってしまい、セレッソの最終ラインは通常通り対応することができたのだろう。

ただ、やはり前半は、先制もしたし、狙っている形の効果もでていた、さらにセカンドボールでも優位に立てていたのでマリノスの試合だったと言える。セレッソも狙いは感じられたが効果を上げるところまではいかなかった。
46分〜
そんな前半が終わろうかというアディショナルタイムの45+1分。マリノスは山中が接触プレーではないところで右ふくらはぎを痛めて遠藤と交代。そのまま前半終了となる。

■突然オープンになった約15分

前半終了間際に山中に代わって遠藤が投入されることとなったマリノスだが、下がった山中は左SBが本職で、リーグ戦最終節から左SHにポジションを上げた選手。一方の遠藤は右SHの選手。さらにマルティノスはこれまでも左右両方のサイドでプレーしていたので、前半は残り少なかったから仕方ない。しかし後半に入るとマルティノスは左サイドに、遠藤は右サイドにと左右のポジションを入れ替えるかと思っていた。
しかし実際に後半が始まると両者のサイドはそのまま。
ということは、マリノスはマルティノスに丸橋を当てるという狙いを持っていたことがわかる。

そんな形で始まった後半だったが、最初にソウザが滑ってしまいマリノスにFKを与えたことで立ち上がりはマリノスが攻勢をしかける。
この時間が少し続いたのも、その後しばらくの試合展開も、セレッソが前半に比べるとあきらかに攻め方を変えたことが原因だった。後半立ち上がりのセレッソはボールを奪うと一気に前線にボールを入れようとするし、前線に人数をかけようとしていた。

この形は、上手く前線にボールが入ればマリノスを押し込めることもできたし、連続でCKを獲得する場面もあったのだが、正直なところ効果的ではないと感じていた。
というのもあまりに速く攻めようとしすぎていたので全体が間延びし、その結果ボランチ裏にもスペースを作ってしまうので、カウンターを受ける場面も続出していたからだ。
まだ後半の立ち上がりなのにまるで後半80分以降の様な状態だった。
この時間帯でビハインドもわずかに1点なら、これほどのリスクを負って攻める必要は無かったんじゃないかと思っていた。
実際にこの時間帯がマリノスのカウンターを最も受けていたし、失点につながってもおかしくないような場面もいくつもあった。

■マリノスの守備のスタート位置が下がる

このセレッソがある種無理に急いで攻めていた攻撃は、60分頃まで続けていたが清武がファールを受けた場面から突然少なくなり、セレッソは縦に一気にという形をあまり見せなくなった。
そして、このムリ目の攻撃を止めた時、マリノスの守備位置はあきらかに下がっており丸橋は敵陣に入ったところででもフリーでボールを持てるようになっていた。
この「マリノスが下がってしまうこと」を狙って15分間ムリ目の攻撃を続けていたのかどうかは正直わからない。ただ単純に「後半立ち上がりの15分間は仕掛けよう」というシンプルな指示だったのかもしれない。
そしてもしマリノスの守備を下げることを狙っていたとしてもリスクを負いすぎだし、偶然なんじゃないのか?とも思う。
しかし、結果的にはマリノスの守備があきらかに下がったので、この後セレッソが簡単に敵陣までボールを運べるようになり、マリノスを押し込む様になる。

その押し込んだ展開から始まったのが65分に決めた山村の同点ゴール。
まずは丸橋がフリーで簡単に敵陣でボールを持つことができたので、そこから柿谷が左サイドに流れ、ソウザ、清武と絡んでマリノスを押し込んだ。
ただこの攻撃はマリノスが前半同様に4人の最終ラインの前に中盤の5人もしっかり戻ってくるのでスペースは消している。なので一旦は松原がヘディングで跳ね返した。
しかし押し込んでいたのでセカンドボールは拾える。
このセカンドボールを山口が拾うと中央にいた水沼にパス。水沼はマルティノスのチェックをかわすと強引にミドルシュート。このシュートは飯倉がセーブし、こぼれ球も松原が何とかクリアしようとするが、そのボールはボックス内の山村の下へ。山村は落ち着いてワントラップし、ゴールに流し込んだ。

マリノスの守備ブロックを下げたやり方も狙っていたのかどうかもわからないし、水沼のミドルシュートに関しても、前半から攻撃に時間がかかってしまうとマリノスは中盤の選手もしっかり戻るのでゴール前のスペースは埋められミドルシュートぐらいしか攻め手がなかった。なのでマリノスとしてもそんなに悪くない対応だったと思う。
しかしそんな中でも半ば強引に放ったミドルシュートからセレッソが同点ゴールを決めた。というか「こじ開けた」。

そしてもう1つ。もしかしたら影響していたかもしれない点としては、セレッソが仕掛けて試合がオープンな状況だった58分にマルティノスから遠藤にサイドを入れ替えようと伝え、そこから右遠藤、左マルティノスという形で両WGのポジションが入れ替わっていた。
当日現場では、カウンターでマルティノスが中に入った流れからポジションを入れ替えたのかと思っていたが、試合を見直すとその後一旦ポジションに戻った後で、マルティノスから遠藤に対してサイドを入れ替えようと提案し、ワンプレーを挟んでからポジションを入れ替えるという形になっていた。
マリノスの守備ブロックは、サイドの選手だけでなくセンターの選手も下がっていたので、単純に「遠藤が下がりすぎていたことが原因」という訳ではない。しかしこのマリノスの下がりすぎていた時間帯はマルティノスと遠藤がサイドを入れ替えていた時間帯に起こった出来ごとだった。
ちなみにこのポジションチェンジはマリノスが交代でウーゴ・ヴィエイラを準備しピッチサイドにたった69分まで続き、今度は遠藤がマルティノスに対して元のポジションに戻るように伝えている。

■前後半終了まで

セレッソが同点に追いついたあとのキックオフから、マリノスは守備のスタート地点を最初のポイントに戻そうと再び中盤で4人がアプローチをかける形にしたが、最初のプレーでセレッソがこのゾーンをやぶり敵陣深くまで侵入。すると前線の伊藤が孤立するので、セレッソが押し込む時間が続く。
70分〜
そこで70分、マリノスはバブンスキーに代えてウーゴ・ヴィエイラを投入。伊藤とウーゴ・ヴィエイラが並ぶ4-4-2にしてくる。マリノスはこの4-4-2に変えたことで準決勝の柏レイソルにも勝利している形だ。
マリノスは4-4-2になることで、前半、そして後半の失点後にやろうとしていた中盤で4人がアプローチをかけて後ろに1人余るという形は作れなくなるため、守備は多少下がってしまうことになるが、ボールを奪った時に伊藤が少し下がり目のポジションを取ることで前線の孤立は解消し、ボックス内で仕事ができるウーゴ・ヴィエイラをゴール前で勝負させたいということなのだろう。
80分〜
セレッソもまずは77分に丸橋に代えて田中を投入。そして80分に柿谷に代えてリカルド・サントスを投入する。
丸橋から田中に関しては前半から幾度とやられていたのでマルティノス対策だろう。
丸橋にはスピードがあるのでマルティノスに対して少し距離をあけて対応するようにしていたが、田中は最初にマルティノスに対して距離を詰める形に変えていた。また投入直後に木本に対しても指示を出している。
柿谷に関しては、準決勝もベンチスタートだったようにコンディションの問題もあるのだろうが、少しサイドに流れることも多くゴール前で勝負する時間が少なかった。なのでゴール前で勝負できるリカルド・サントスということなのだろう。またリカルド・サントスには裏抜けもある。

両チームのこの交代後もペースを掴んでいたのはセレッソだった。
マリノスの両サイドにはスピードもあるしウーゴ・ヴィエイラにも一発がある。
しかし前線でほぼ起点を作らせないのでセレッソが攻め込む。87分にはソウザのスルーパスからリカルド・サントスが抜け出しシュートを放つも飯倉がセーブ。その後もセレッソが攻め込んでいた。
マリノスも後半アディショナルタイムの90+3分にウーゴ・ヴィエイラが木本との競り合いで上手さを見せシュートまで持っていくが、ヨニッチもしっかりと戻り対応。
試合は1-1のまま延長戦に突入する。

■延長戦

延長になっても戦い方を変える必要がないセレッソはそのまま。なのでマリノスも両サイドのスピードを活かしたカウンターを狙う。
ただ、マリノスはほとんどカウンターを繰り出すことができない。そしてセレッソもマリノスがしっかり下がって守ってしまうので、押し込む事はできるが崩すのはムリ。なのでとにかくクロスを入れることになるのだが、それなら少し前に下げた丸橋が欲しいという展開だった。

ただ、結果的にはやはりマリノスは少し下がりすぎていたんだろう。
延長前半5分にあたる95分、中澤がハーフウェイライン辺りでボールを収めた山村に対してファールを犯しセレッソがFKを獲得すると、そのボールを山口がスグ横の清武にパス。
敵陣に5mほど入った位置でボールを受けた清武はそこからドリブルを始めると、マリノスの選手がズルズル下がってしまい、慌てて出てきた中町をかわすとそのままボックス内に侵入。最後は中澤が何とか対応したが、ブロックの前からドリブルを始めた選手に対して最終ラインの選手がバランスを崩して対応するしかなかった。
そしてこのこぼれ球を拾ったのは山村。山村が田中とパス交換をした時点でボックス内には中澤の後ろでパク・ジョンスとリカルド・サントス、下平と水沼というマッチアップになっており、さらに水沼は下平よりも外側にいたので下平はボールと水沼を同一視野に収められる状況ではなかった。
この状態で山村が入れたクロス、クロスというよりも低い位置からのフィードボールの様な蹴り方をしたボールを、おそらくマリノスの選手はGKの飯倉も含めてリカルド・サントスを狙ったと思ったんだろう。しかし逆回転がかかったボールは大外の水沼へ。キックの瞬間前にでてしまった飯倉はこのボールにかぶってしまい、さらに下平も対応に遅れてしまった。
結果的にこのボールを大外から回り込んだ水沼が頭で流し込んでゴール。
セレッソがついに逆転に成功した。
マリノスから見ると、このプレーはこの試合に限らずここまで好セーブを続けてきた飯倉のミスだった。そのミスに下平の対応も十分ではなかったことが重なった。
一方セレッソにとってはこれも「こじ開けた」ゴール。決してスムーズに崩した訳でも、狙い通りに相手を動かしたわけでもない。清武が個人でムリをすることで相手を動かし、その崩れた状態を山村が見逃さなかった。
95分〜
この得点を受けてセレッソは早速山村を最終ラインに下げる5バックに。もはや今シーズン何度も重ねてきて、何度も逃げ切ってきた形なので対応は速い。ゲーム再開のマリノスのキックオフの時点で既に5バックになっていた。

この試合初めてのビハインドを負う事になったマリノスはダブルボランチの一角である天野を少し高い位置に出してくるが、マリノスはボックス内で勝負できるところまでなかなかボールを運ぶことができない。
ウーゴ・ヴィエイラが時々らしさを見せようというプレーはあったものの、セレッソの方がボールを持つ時間も長く、マルティノスもかなりイライラを見せるようになっていた。
106分〜
延長後半開始となる106分、マリノスは天野に代えて前田を投入。並びとしては4-1-4-1とも言えるが、伊藤と前田のポジションはインサイドハーフではなくシャドゥ。後が無いマリノスはかなり前がかりになる。
ただマリノスはどうしても攻撃に手数がかかる。そもそも前線には高さが無いし、例えば中澤を上げることもしない。なのでロングボールを蹴ったとしてもサイド、パワープレーをしない。
117分に遠藤のクロスからウーゴ・ヴィエイラが頭で合わせるもキム・ジンヒョンがセーブし、アディショナルタイムの120+2分に前田の強引なシュートがヨニッチに当たりコースが変わるも枠外と、2つのピンチをセレッソが守りきるとそのまま試合終了。
セレッソ大阪がヤンマーディーゼルサッカー部時代も含めると43年ぶり4回目、セレッソ大阪としては初、そして2017年シーズンとしてはYBCルヴァンカップに続き2つめのタイトルとなる天皇杯優勝を決めた。

■その他

マリノスは準決勝の神戸の様に「これまでのやり方を完全に捨てセレッソ対策ととる」とまではいかないが、自チームのやり方を踏まえながら、これまで今シーズンに対戦した3試合を踏まえたセレッソ対策を行い、そのやり方がセレッソをかなり苦しめた。今大会中最もチームの持ち味を発揮しにくい試合だった。
しかしそんな中でも、先制されながらも逆転優勝。チームの成長を大きく感じさせる優勝だった。
ルヴァンカップで優勝した経験、こうすれば優勝できるのだという成功体験を積んだことが本当に大きかったんだろう。

これまで何度も苦しんできたことがウソのように、11月4日に初タイトルをとった2ヶ月後に再びタイトルを獲得することができた。
Jリーグの歴史上これまで2冠以上を達成したのはわずか4チーム。ヴェルディ川崎(1993年,1994年)鹿島アントラーズ(2000年、2007年、2016年)浦和レッズ(2006年)ガンバ大阪(2014年)しかない。
それを達成することができた2017年は本当に素晴らしいシーズンとなった。




10 件のコメント :

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  2. 本当に素晴らしいシーズンでしたね。
    選手たちには感謝してもしきれません。
    今後も今年のようなワクワクする楽しいシーズンにできるよう、クラブ・選手・サポーター一丸となっていきたいですね。

    管理人さんも1年間お疲れ様でした。
    ありがとうございました。
    毎回とてもわかりやすい分析で本当に勉強になりました。
    無理のない範囲でいいので、来シーズン以降も的確な分析を続けていっていただけたら嬉しいです。
    来シーズンも楽しみにしています。

    とうとう、というかやっと?短いオフに入りますね。
    新戦力、契約更改、残念ながら退団、嬉しい出会いと悲しい別れがありますね。
    来シーズンに期待しながら、静かに見守りたいと思います。
    ところで以前セレッソが降格した時、「なぜ降格したのか?」を管理人さんが考察されていたと思うのですが、今年は「なぜ結果を残すことができたのか」をもし余裕があれば考察していただきたいです。

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    1. コメントありがとうございます。
      シーズンレビューは今年もやる予定にしています。

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  3. 山口まこと2018年1月4日 16:15

    本当に素晴らしいシーズンだったと思います。
    1年間のコメントありがとうございました。
    天皇杯の準決勝、決勝では、それぞれ直近のリーグ戦で完敗したこともあり、神戸と横浜が入念な対策をしてセレッソに向かってきたことがよく分かりました。

    2017シーズンは、正直な感想として若干運も良かったかなという感じもします(ルヴァンカップ・天皇杯の準決勝の木本と水沼の劇的ゴールなど)。
    2018シーズンは、
    ①これまで以上に他チームがセレッソを研究し対策を練ってくると予想される
    ②ACLとリーグ戦が並行することによる疲労とターンオーバーの問題
    など、さらに困難な問題を抱えると思われます。
    ブログにたびたび書かれていた「攻撃時の型(パターン)」が少ない問題も含め、2017シーズンのまとめと来シーズンの展望では、これらについてもコメントをよろしくお願いいたします。

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    返信
    1. コメントありがとうございます。
      本当に素晴らしいシーズンでしたね。
      天皇杯が組合せに恵まれていたところもありましたし、たしかに運も良かったとは思います。

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  4. 試合後にAkiさんのブログをいつも感心しながら見させて頂いております。
    一年間お疲れ様でした。
    Akiさんのブログを見ていてすごいと思うのは、セレッソの好不調に関係なく、ずっと同じスタンスで分析を続けられているところです。単なるセレッソファンとしてだけでなく、いちサッカーファンとして尊敬しています。
    改めまして、いつもありがとうございます。

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    返信
    1. コメントありがとうございます。
      好不調に影響されてないのは、これまで数々の好不調を経験してしまったからかもしれません(笑)

      削除
  5. シーズン2冠はヴェルディ川崎(1993,1994)もあったような

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    返信
    1. コメントありがとうございます。
      ヴェルディ川崎もそうでした。
      ありがとうございます。修正いたしました。

      削除
  6. 2冠以上達成はこれまで4チームしかかなかったんですね。
    5チーム目のセレッソはオリジナル10以外で初の快挙と言えますね!

    返信削除

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