スタジアム | ヤンマースタジアム長居 | 主審 | 木村 博之 |
入場者数 | 42,221人 | 副審 | 聳城 巧、武部 陽介 |
天候 / 気温 / 湿度 | 曇 / 11.4℃ / 52% | 第4の審判員 | 今村 義朗 |
メンバー
- 監督
- ロティーナ
- 監督
- フアン マヌエル リージョ
<監督・選手コメント>
セレッソ大阪 ロティーナ監督
ヴィッセル神戸 ファン・マヌエル・リージョ監督
セレッソ大阪 山下選手、清武選手
セレッソ大阪 ソウザ選手、舩木選手、都倉選手
ヴィッセル神戸 山口選手
今年のJリーグもついに開幕。2019年明治安田生命J1リーグのオープニングマッチとして金曜日に行われたセレッソ大阪対ヴィッセル神戸の一戦はCKから山下のゴールでセレッソ大阪が1-0で勝利。最少得点差で決着が着いたが、スペインで確かなキャリアを重ねてきた名将同士による見ごたえのある試合となった。
■メンバー
スターティングメンバー |
東京Vを追いかけておられる方によると、ロティーナは45分以上プレーできるコンディションなら先発起用するタイプだそうだ。
一方のヴィッセル神戸の先発メンバーだがGKキム・スンギュ、CB渡部を始めいくつか予想とは異なる選手が起用されていたがこれらの選手は共に実績のある選手なのである程度は想定内。
予想外だったのはその並び方で、Jリーグ公式ではポドルスキとビジャの2トップに中盤ダイヤモンド型となっているが、前線の立ち位置はポドルスキとビジャがワイドに入り、イニエスタが偽9番に入る0トップ。ビジャはバルセロナにいたときと同じポジションで、メッシの位置にイニエスタ、イニエスタの位置に三田が入るという並びとなっていた。
■舩木右WBの狙い
セレッソサポーターにとってこの日の布陣で一番のサプライズは舩木の右WB起用だったのではないだろうか。U-23でも左SBだし、世代別代表チームでも左SB。チーム始動直後からトレーニングではやっているということだったが、舩木自身も語っている様に公式戦ではこれまで一度もやったことがないポジションである。舩木はこの試合がJ1でのリーグデビュー戦でさらに開幕戦。おそらくそれを踏まえてまず最初にボールを触らせるために、キックオフでハーフウェイライン近くに立ち位置を取ろうとする舩木に対し「下がれ」と指示し、キックオフから右WBに直接パスを出すという通常ならほとんど見ない「柿谷先輩」の優しい心遣いを感じさせる形で始まったこともあり、開始早々には左利きの舩木を右WBに入れた狙いが感じられる場面があった。
2分ソウザからのサイドチェンジを舩木が受けた場面 |
大外にポジションを取っているのでフリーでボールを受けると内側を向いて左足の前にトラップ。この内側を向いた左足の前とは寄せてきた初瀬からは遠い方の足である。そしてここから舩木は初瀬の裏のスペースに飛び出した水沼へとパスを送るのだが、この時左利きの舩木には同じ身体の向きで、ゴール前へ入っていく柿谷、逆サイドから柿谷の後ろに入ってくる清武と3つの選択肢があったのだ。
そしてもしここで時間があるようなら舩木は相手から遠い方の足でボールをコントロールしながら中へとドリブルしてタメを作ることも可能だった。
右利きの選手ならどうしても右の外側(サイドライン側)にボールを置くことになるのでこれだけの選択肢を持つことは難しい。
プレシーズンから右サイドに左利きの選手を置きたがっていた理由はこういったことである。
そしてもう1つ。同じ左利きでもこの試合で右WBに入ったのが丸橋ではなく舩木だったのは2人のプレースタイルの違いから。2人は同じ精度の高い左足を持つという共通点はあるが、丸橋が元SHで舩木が元ボランチ。なので丸橋は舩木よりも縦への推進力があり、舩木は丸橋よりもパスで味方を使うのが上手い。
この試合ではおそらく、左インサイドハーフの後ろから初瀬の裏や初瀬と渡部の間を狙うということを考えていたんじゃないかと思う。なのでフリーランニングが得意な水沼が右シャドゥ。そして右WBにはその水沼を使える可能性がある舩木ということだったのではないだろうか。
しかし、この試合では特に前半はこれ以降舩木からのパスでというような形はあまり見せることができなかった。
そうなってしまったのは舩木にボールを届けるまでに時間がかかってしまっていたから。そうなるとボールを受ける時に既に初瀬や三田に距離を詰められてしまう。
そうなると舩木からのパスという形はどうしても作りにくくなる。
チームとして今後改善していかないといけない部分だろう。
■イニエスタの0トップ
この試合、序盤はセレッソ、神戸の両チーム共にボールを保持しようとする姿勢を見せていた。しかし時間の経過と共に神戸がボールを保持するの方が長くなっていく。セレッソは試合序盤、清武と水沼を高い位置に出して守備をしようとする姿勢も見せていたので決して最初から神戸にボールを持たせようとしていた訳では無かっただろう。
イニエスタの0トップ |
神戸はボールを持った時にポドルスキとビジャは前線で両ワイドに大きく開いたポジションを取り、イニエスタはCBから離れる動きをする。ちょうどバルセロナが0トップをやっていたときの形に近い。
試合終了後のインタビューでリージョ監督が語っているが、この形は両WGが高い位置を取ることで相手DFラインをその高さに押さえてしまうことができる。
例えばビジャだけが中央で高い位置を取っているとすれば、中央のCBだけがそこに残ってもいい。しかし両ワイドでそれをやられるとCBは目の前に誰もいないのにそこにとどまらざるを得ない。なぜならここでむやみに前に出てしまうとDFラインの内側にギャップができる。そしてそのギャップを両ワイドの選手がゴール方向に向かう動きで使うことができるからだ。
なので、セレッソの3CBは目の前に誰もいないにもかかわらずそこから動けなくなってしまう。ということはその分どこかに数的不利ができる。その数的不利となったのがイニエスタが下がってきた中盤。序盤に少し見せていたように柿谷+清武、水沼の両シャドゥが高い位置から神戸のDFラインにアプローチをかけようとするなら中盤ではソウザ、奥埜の2人に対して、三原、山口、イニエスタ、三田と4人もいることになるのだ。
となるとセレッソは清武と水沼も下がって5-4-1の形を取らざるを得ない状況となり、神戸のDFラインにアプローチをかけることはできない。その結果がイニエスタを中心に神戸の中盤が完全にボールを支配するという展開に繋がったのである。
■ネガトラ要員に山口と三原
5-4-1の守備陣系は最も守備に人数をかけることができるのでかなり守備は固くなるのだが、その反面1トップが孤立しやすく、その結果カウンターを仕掛けることが難しい布陣でもある。そんな中でもこの試合前半のセレッソは、さらにボールを奪ってからの縦に速い攻撃を仕掛けることができなかった。
その要因となっていたのが中盤にいた山口と三原。
神戸はボール保持の時に両SBまでもが高い位置を取る。となると最終ラインは実質2バックみたいな形になっているのだが、実はボール保持の時に山口と三原の2人はほとんどセレッソの中盤のラインよりも前に出ていかない。なので、セレッソがボールを奪いカウンターを狙おうかという場面でいち早く対応。CBとはさみこんだり、前に出ていこうとするシャドゥのところにボールが入るといち早くアプローチをかけたりして、セレッソの攻撃をスローダウンさせることに成功。ネガトラ(ネガティブトランジション=攻撃から守備への切り替え)でかなり効いていた。
この2人は時折ポジションを入れ替えていることもあったが、前に出ていかないという形は変わらなかった。
■動かなかったセレッソの3CB
こうして神戸がボールを持つ展開となったが、神戸のシュートはミドルシュートがほとんど。ボックス内でフィニッシュまでという形はほぼ作れていなかった。その要因の1つはイニエスタはセレッソの2列目の守備の手前でプレーすることはできていたが、最終ラインと2列目の間でプレーすることはほとんどできなかったからだった。
セレッソの布陣は下げられながらもコンパクトな布陣を保ち続けていたこともあるが、間のイニエスタにはボールを届けることができなかったからだった。ただこれはもう無い物ねだりみたいなものなのでしょうがない。
なのでそれ以外の要因。それはセレッソの3バックが、おそらくここまで想定してなかったであろう神戸が圧倒的にボール保持をする展開となりながらもポジションを守り通したからだろう。
先程も書いたようにイニエスタの0トップという形によってセレッソの3バックは眼の前に誰もいない仕事が無い様な状態を作られてしまった。そして想定以上にボールを握られている。なのでボールを奪い返したいと変に喰い付くような、ポジションを崩すようなことをしてしまう可能性もあるのだが、それこそが相手の思うつぼ。両ワイドに逆足で配置されているビジャとポドルスキの餌食になる。しかしセレッソの3CBはポジションを守り続けたことで神戸の攻撃をほぼミドルシュートのみという形に抑えることができた。
■左インサイドハーフの裏
後半も前半と同じ様な神戸がボールを保持する展開で始まる。がしかし、60分になる少し前から少しずつセレッソがボールを奪った後に素早く前線にボールを届けられるような場面が出てくるようになる。
左インサイドハーフの裏 |
神戸が守備の時にDFライン4人と中盤は山口、三原、三田の3人、そしてポドルスキ、イニエスタ、ビジャの3人で4-3-3の形で守る。ただ前線の3人はここぞという場面では激しく守備をするものの、基本的には積極的に守備に関与するわけではない。なので4-3で守る。
前半はセレッソがボールを奪った時に山口と三原がまず対応し、その時間を使ってボール保持で下がったイニエスタと入れ替わる形で前に出ていた三田が下がってくることができていたのだが、60分になる少し前あたりから三田が戻るよりも前に水沼や奥埜だったりが先にこのスペースに入ってくる様になったからだった。
64分〜 |
都倉がトップに入り柿谷は右シャドゥに移動する。
この後、イニエスタのとんでもないプレーでポドルスキに抜け出されたけたが、左足でシュートを打ちたいポドルスキに対して木本が素晴らしい対応でシュートを打たせず。
70分〜 |
この2人の投入の後、セレッソに決定機。
都倉のポストプレーからボールを受けた柿谷が個人技で三原と山口を外すと都倉へとスルーパス。シュートは外れたが都倉がGKと1対1となる場面を作った。
この場面は60分ごろからセレッソが速い攻撃を見せ始めたのと同じ形。しかし今度はこのスペースに入ってくるのは柿谷。1トップの時はCB2枚に常に見られていたがここではスペースがある。スペースがある状態なら柿谷は瞬間的に素晴らしいプレーを見せることができる。
都倉にはぜひ決めて欲しい場面だった。
72分〜 |
古橋がCFに入りイニエスタが左インサイドハーフ、三田が右インサイドハーフ、山口がアンカーという並びに変える。
神戸はボールは持てる。しかし中央に人がいない。セレッソの3CBも動かない。という状態だったので最初から人を置いて崩しきろうという狙いだったのだろう。
しかし結果的にこれが裏目に出る。
イニエスタがそれまでの様に自由に振る舞えなくなり、セレッソの基点となっていた左インサイドハーフ裏はイニエスタの裏。そしてさらにボールを失った時に残っていたのが山口と三原の2人から山口1人になってしまったことで、ネガトラの質が下がってしまったのだ。
前半からサイドだけでなく時々はボックス内にまで入ってくるセレッソにとって嫌な動きを見せていた西がボックス内に入って放ったヘディングシュートをキム・ジンヒョンがキャッチすると、ここからセレッソがカウンター。舩木から柿谷につなぎ今度は逆サイドのソウザへ。ソウザの左足シュートは枠を外すがスペースに出ていった時のソウザはかなり頼りになる。
そしてさらに都倉が抜け出しかけ、さらに間延びしたスペースをついて柿谷、都倉とのコンビネーションでソウザがミドルシュートを放つ。
このシュートはワンタッチがあり枠を外れたが、ここで得たCK。
この試合初めて丸橋が右CKをインスイングで狙うと、ニアで木本がスラし後ろから山下が飛び込んでゴール。
77分にセレッソが先制する。
ビハインドとなったことで前への圧力を強める神戸。
88分〜 |
舩木は自分が上がるのか?と確認し、山下も舩木が前に上がるのか?と確認していたが、本職は右SB、山口戦ではボール保持時には3バックの右やそこからインサイドに入ってビルドアップをみせていた松田がここではシャドゥに入る。
そしてセレッソの3CBを始めとする5-4-1の守備は最後までバランスを崩す事なく試合終了。
42,221人を集めた注目のJ1オープニングマッチはセレッソの勝利に終わった。
■その他
現段階ではおそらく理想としているサッカーはまだできる状態にまでは仕上がっていないんだと思う。しかしそんな中でも試合に勝つためにどうするのか。決して理想を捨てる形にするのではなく、そこを目指しながらも相手、自チームを分析し落とし込む。それはセレッソだけでなく神戸も同様。勝ったからこそ言えるのかも知れないが、本当に素晴らしい試合だった。
もちろんプレーの質はこれからさらに上げていく必要はあるが、ロティーナはもちろんリージョもスペインの一線級でやってきた監督同士の戦いのクオリティの高さにはちょっと感動した。
いつも楽しく拝見しています。現地観戦していました。はじめはパスをつないでは真ん中で刈り取られ、を繰り返してどうなる事やらと思いながら見てましたが相手の5番はやはりスペシャルなのでしょうか。29番の先発の意図が仰る通りであれば遂に再現性のある攻撃を手に入れる事ができるのでしょうか。Akiさんの解説を拝見して次の観戦が楽しみです。今年も解説を楽しみにしております。頑張ってください。
返信削除コメントありがとうございます。
返信削除山口はもちろんスペシャルですよ(笑)
あと、名古屋戦のプレビューにも書きましたが、ロティーナはチームを1つの単位としてどう戦うかを考えている監督なので再現性という部分はもちろんあると思いますよ。