2021年シーズンレビュー第2回。今回は前回最後に書いた通り小菊昭雄監督率いるセレッソ大阪について考える。
■最善手だった小菊昭雄コーチの監督就任
2021年シーズン梶野智統括部長の肝入りで就任したレヴィー・クルピ監督だったが、4度目の就任となった今回は最後までチームの戦い方を定めることができないまま成績が低迷。第26節にホームで湘南ベルマーレに1-5で大敗したことをきっかけにクルピ監督の退任が決定し小菊昭雄コーチが新監督に就任することが発表された。
第26節の湘南戦から第27節のG大阪戦までは中2日しかないという過密日程だったが、湘南戦ではもはやチーム状態は改善不可能なほど崩れているように見えたので、そうせざるを得ない状態だったのだろう。
そして小菊昭雄コーチの監督就任は、この時点で考えられる最善の手だったと思っている。
湘南戦でチームが崩れていたとは書いたが、今回の場合は低迷したチーム内でよく起こり得る選手も含めたチームがバラバラになっていたというものではなかった。問題を抱えていたのは監督と選手の関係で、監督がチームの戦い方を定められないこと、チームとして何をしようとしているのかが明確ではなく選手に負担ばかりがかかる戦いを繰り返していたことによるものだった。
そうなったのはクルピ監督が、昨季までの結果が出ており、さらに選手自身も手応えを感じていたやり方を全く踏まえない形でチーム作りを行い、さらに結果が出ずに、そして戦い方を定められなかったから。
ただしこれはクルピ監督に問題があったというよりも、そんなクルピ監督を呼び寄せた梶野統括部長の問題だろう。
おそらくクルピ監督は2020年までのチームの戦い方をそこまで詳細に分析をすることもしないまま監督に就任したと思うが、それが彼ののやり方。こういう結果になることは十分予想できた。
こういった状態での監督交代だったので、できることとしては選手が慣れ親しんだ自信を持っている戦い方に戻すか、新しい戦い方を植え付けるかのどちらか。
そして次の試合まで中3日でしかもカードは大阪ダービー、さらにコロナ禍での外国人の入国制限。この2つを考えると後者の新しい戦い方は現実的では無いので、前者の慣れ親しんだ戦い方に戻すしかない。それには慣れ親しんだ戦い方をチーム内で見ていた小菊昭雄コーチの監督就任以外は考えられなかった。また小菊コーチは選手からの信頼も厚く選手との関係性もできていることも大きかっただろう。
■戻すことからスタート
小菊監督の初戦となったのは第27節G大阪戦。前節から中2日、監督就任の2日後に行われたアウェイでの大阪ダービーで小菊監督が決断したのは、選手たちが慣れ親しんだ、そして手応えを感じていた前年までの戦い方に戻すことだった。
もちろんロティーナ監督もイバンコーチもいないので全く同じではないが、ボール非保持では高い位置から奪いにいくというよりも制限をかけるような形でスタートし4-4-2のブロックを作って守り、ボール保持では自陣からボールを繋ぎ相手の出方を見ながらボールを運んでいく形をとった。
ロティーナ監督の初期のようになかなかチャンスを作りきれない部分はあったが、FW以外のDFラインやMFの主力選手にとっては慣れ親しんだ形・やり方でもあったので、セレッソ以上に混迷のシーズンを送っているG大阪相手に完全にゲームをコントロールすることに成功。0-1という最小得点差ではあったが、勝ち切ることに成功した。
そして続く同じG大阪とのルヴァンカップ準々決勝ホームでのファーストレグでは結果的には0-1での敗戦となったが、キム・ジンヒョン以外の昨季までの中心選手を入れ替えた中でもある程度試合をコントロールすることに成功。そして数人の主力選手を戻したアウェイでのセカンドレグでは0-4の快勝したことで、クルピ監督最終期の崩れていた状態からチームを立ち直すことに成功した。
■徐々に見えていった小菊監督の戦い方
戻すことからスタートしたチームはここから徐々に小菊監督の戦い方が見えていくことになるのだが、特徴的だったのは試合毎、対戦相手毎にかなり具体的な形を落とし込んでいたこと。
主に落とし込まれていたのは攻撃、特にアタッキングサードのゴールに近い部分で、広島戦でのクサビの入れ方からDFライン背後の狙い方、徳島戦での左CBと左SBの間の狙い方が象徴的だった。
戦い方のベースとしては4-4-2からのプレッシングとブロックの使い分け、そしてボール保持では自陣からのビルドアップとショートカウンターを使い分けるというもので、もちろんこれまで小菊監督がコーチとしてチームを支えてきた影響を感じさせるものだが、例えば誰か1人のコピーというよりもそれぞれの監督の良いところをミックスしようというものだったのではないだろうか。
とはいえもちろん様々な課題にも直面。最初にぶつかった大きな課題は高く設定した最終ラインの背後を簡単に使われてしまうこと。小菊監督はブロックを高く設定することで押し込まれる時間帯をできるだけ短くしたいという狙いがあったのだろう。
ただしこれを実現するにはボールホルダーにプレッシャーをかけ続けることが必須。ここがなかなか定まらず連敗となる期間もあった。
しかし小菊監督就任と時期を同じくして加入した乾貴士がエイバルでやっていたプレッシングのやり方を導入することでこの課題も解消することにつながった。
■なぜ勝ち試合と負け試合で両極端なのか
こうして現象的な部分では課題に直面し向き合ってきたが、最後まで解消されなかったのは第1回でも触れた勝ち試合と負け試合が極端になってしまうこと。ここがこのチームの最大の課題だろう。敗れた7試合は全ていいところなく淡々と敗れてしまうという試合だった。
こうなっていた原因は戦術的な部分というよりももっと根本的な部分、ゲームモデルの部分での問題だと考えている。
日々のレビューやプレビューでも触れてきたが、このチームはやりたいことはわかるのだがそれぞれがつながっていない、チームとして何で勝負しようとしているのかが結局最後までわからなかった。
少しわかりにくい話しなので具体的な例をあげると、最もこの部分がつながっていた、ゲームモデルが整備されていたチームは2019・2020年のロティーナ監督のチームだろう。
2020年のシーズンレビューでも触れたが、戦術的にはゾーンディフェンスやビルドアップという部分に特徴があったが、何よりもそれらが全て繋がっており全てに意味があった。時には守備ブロックがかなり低い位置になることもあったがピッチの縦幅全てを使って守備をすることができたのはボールを運ぶ術を持っていたから。そしてこれを揃えていたことでトランジションという最もアンコントローラブルになってしまう状況をできるだけ制限した。ただそうなると、失点する可能性を制限できるが同時に得点することも難しくなる。そこで手をつけたのが再現性。相手の戦い方と自分達のストロングポイントを明確にして、どこで勝負するのか、どうやってそこにボールを届けるのかという部分を整理した。2019年であれば右から左にボールを届けたところでの内側に入った左SHの清武(柿谷、田中亜土夢)、2020年であれば右サイドの大外レーンでの坂元の1対1というのがその象徴的な形である。
こういったゲームモデルが整備されている、それぞれが繋がっていることで大きいのは、上手くいかない時に原因を見つけやすく比較的修正もしやすいこと。全てのサイクルが繋がっているということは入口と出口が明確になっているからだ。もちろん全てがうまくいくわけではないが、例えば藤田や松田陸の立ち位置を動かすだけで一気に試合のペースを変えることができた部分などがその象徴だろう。
しかし小菊監督の戦い方を見ると、プレスとブロックの使い分け、最終ラインを上げるか下げるか、自陣からボールを繋ぐことなどそれぞれのやりたいことや相手を見てやろうとしていることは理解できるものの、これらが1つのゲームモデルとして繋がっていない。
なのでチームが機能するかどうかは、落とし込んだ具体的な形で結果を出せるかどうかにかかってくる。ここがうまくいかないと特にボール保持は前線のアイデアに頼ることになる。そうなると選手は流動性で解決しようとすることが増え、それがボール非保持での不安定性にもつながる。これが勝ち試合と負け試合で両極端になってしまった原因ではなかったかと考えている。
もちろん戦術的な課題もまだまだある。そして別のやり方でカバーすることもある程度は可能だ。
しかしゲームモデルの部分はチームの根幹。2022年は小菊監督のチームがここにどう向き合っていくのかに注目したい。
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