2020年1月8日水曜日

セレッソ大阪 2019年シーズンレビュー vol.3


シーズンレビュー第3回。今回は前回まとめた「試合をコントロールし、オープンにしない」というコンセプトを踏まえロティーナのサッカーのゲームモデル・戦術を具体的に掘り下げていこうと思う。


■ゲームモデルのコンセプト

第2回の最後に、ロティーナのサッカーのコンセプトとして「ボール保持」を長くすること。そして「ボールを失った時」「ボールを奪った時」という攻守が切り替わる回数を減らす、つまりボールが行ったり来たりするようなオープンな状況を作らないこと。という考え方があることを書いたが、このことは実際に攻撃回数というデータに現れている。
2019年のセレッソの攻撃回数は108.3回/試合でリーグで17番目の少なさだった。
以前にも書いたことがあるが、「攻撃回数が少ない」ということは相手に攻められているからではないのか?と感じてしまうかもしれないが全くそういった事ではない。
実際にセレッソのボール支配率は51.0%。時間で言えば自分たちがボールを持っている時間の方が長い。
この攻撃回数が表しているのは、ボールを奪い返した回数、さらにいえばボールを失った回数、つまり「攻守の切り替わり」に関連するデータなのである。
ということで、攻撃回数が少ないということは「攻守が切り替わる回数が少なかった」ということ。つまりこのデータはロティーナサッカーのゲームモデルのコンセプトが実現出来ていることを表しているのだ。

そしてリーグ最少失点も当然ながらこのゲームモデルのコンセプトが実現出来ているからである。
もちろんボール非保持での守備の戦術コンセプトが徹底されている事が前提ではあるのだが、混乱に繋がりやすい「攻守が切り替わる回数が少なかった」からこそ達成できた数字である。
その中でもJリーグ史上最少の前半失点数はその最たるもの。オープンな試合展開を避けようとするセレッソに対して相手チームもまだ試合時間がたっぷり残っている前半だとあえてそれを崩そうとするようなリスクは負わないことが多い。そしてセレッソ側にとっても前半だと体力的にも精神的にもまだ余裕があるので判断ミスも起こりにくく、エラーも起こりにくい。
シーズンを通して前半4失点という驚異的な記録は単純な守備力云々というだけでなくこうしたゲームモデルがあるからこそ達成できた結果である。

■ゲームモデルを支えるその1 ゾーンディフェンス

前回そしてここまででも触れたが、このコンセプトを支えていたゲームモデル・戦術の柱の1つが守備戦術。これを徹底できていたからこそサッカーの4局面の1つ「ボール非保持」が混乱に繋がりにくくなっていたのだ。
もともとロティーナは堅守を武器にスペインでキャリアを重ねてきた守備で名を馳せた監督である。
実際にヴェルディ時代のインタビューでも「守備の戦術コンセプトを教えることはそれほど難しくない」と語っている。

そんな守備の戦術コンセプトでベースとなっていたのは4-4-2のゾーンディフェンスである。
レビューでも何度も図にして書いてきたように、4-4-2でコンパクトな陣形を作り中央を固めるブロックを作る。そして相手のビルドアップに対しては1列目の2人が攻撃の方向を限定し、4-4のスライドで抑え込む。スタート時点のSHのポジショニングや、SBとCBの間を狙われた時はボランチがそのスペースを埋めること、さらにもう1枚のボランチのポジショニング、逆サイドのSHとSBのポジショニングなど細かなルールがありそれを徹底させた。
尹晶煥監督時代も4-4のブロックの強度はチームのストロングポイントの1つだったが、ロティーナの4-4-2はより緻密でより精度が高いものだったことは今季の34試合でアウトサイドレーン(ピッチを5つのレーンに分けた時の大外のレーン)からの被アシスト(大外レーンからのクロスを中央で合わされて失点した数)が左右合わせて1しかなかったことからもわかる。

そしてこの守備に関する点で興味深かったのが、対戦相手のチームが「自滅した」的なリアクションを取ることが多かった事だ。これは相手チームのサポーターもそうだし、監督・選手のコメントなどでもそういったリアクションが多くみられた。
おそらくこれは強固な守備といえば、前線から激しくボールを奪いに来る「ハードワーク」、もしくはリトリートして人数をかけて守るというイメージを持っているからなのだろう。
このイメージから言えば、セレッソの守備は決して2トップが前線から追い回すこともしないし、自陣でブロックを作るとはいえブロックの位置はそれほど低くない。
またそれでいて前線から相手の攻撃を誘導して引き込むようにボールを奪い返すので、ボールを奪い返す位置は比較的低い。
実際にFootball LABで守備の指標として取り入れられた「KAGI」という項目ではセレッソは18チーム中18位。リーグ最少失点のチームにも関わらずJ1で最低の数字となっている。
これはこの「KAGI」という指標が、
・相手の攻撃時間のうち、自陣ゴールから遠い位置でボールを持っていた時間の割合が高い。
・相手の攻撃が始まってから、自陣のペナルティエリアまで到達するのにかかった時間が長い。
という2項目を指標化したものだからで、Football LABでは、相手の攻撃を遅らせて守備組織を整えることや、なるべく高い位置でボールを奪ってそのまま速い攻撃に移ることこそが堅い守備を表す代表的な形だと考えているからである。
しかしセレッソの場合はこの2項目をそれほど重要視していない。
もちろんその基準は相手のボールを持っている位置にはなるが、相手のボール保持に応じて守備の戦術コンセプトが徹底できていればOKと判断している。
なので相手チームとすれば、なんとなくボールを持てているしボールを運べていると感じてしまうのだろう。実際はサイドに誘導されていて、サイドからアシストを記録したのは34試合で1度しか無いのだけれど。

今季のJリーグアウォーズのベストイレブンにリーグ最少失点にも関わらずセレッソの選手が1人も選ばれなかったのはこういう部分も関係しているのではないかと思う。

■ゲームモデルを支えるその2 ビルドアップ

コンセプトを支えていたゲームモデル・戦術のもう1つの柱はビルドアップ。ゾーンディフェンスとこのビルドアップがゲームモデルの両輪となっている。

もう一度コンセプトの部分に戻るが、ロティーナのサッカーは「ボールを失った時」「ボールを奪った時」という攻守が切り替わる回数を減らそうとする。
これは最も混乱しやすい、危険な状況に陥りやすい回数を減らしたいからであるということは前回にも書いたが、実はこの攻守が切り替わる回数を減らすことでピンチを未然に防ぐだけでなく、同時に相手を最も混乱させやすい、危険な状況に陥れやすい状況、いわばチャンスも未然に防いでしまっている。
攻守の切り替わる回数を減らすということは最もボールを運びやすい、そしてチャンスを作りやすい相手の守備が揃う前に素早く攻め込むという機会自体も減らしているので、これはよく考えれば当然のことである。攻守が切り替わる瞬間にはデメリットもあるがメリットもある。なのでデメリットを消すことでメリットも消してしまうのである。

そこで、メリットの代替案として準備したのがビルドアップ。相手の布陣を見て、自分たちの立ち位置を徹底することでボールを前進させる。自陣から優位性を保ちながら前線へとスペースと時間を送るポジショナルプレーの概念を持ったビルドアップである。
そしてこのビルドアップはGKから始まる形も準備する。これはGKは常にフリーだからでGKから始まるビルドアップは相手の戦い方に関わらず自分たちの判断だけで何度も同じ形をつくることができるからだ。
この部分はロティーナではなく主にコーチのイバン・パランコが担当していると言われている。

ロティーナは以前どこかで「もっと早くにイバンと出会っていたら自分の監督としてのキャリアはもっと違うものになっていただろう」といった主旨の発言をしていたのだが、これはロティーナのイバンへの信頼度を表しているのと同時に「守備の人と言われたロティーナにとってイバンが持つポジショナルプレーの概念を持ったビルドアップはかなり大きなものである」ということを表しているんだと思う。
イバンが持つポジショナルプレーの概念を持ったビルドアップによって守備を徹底させながらも攻守の切り替えに頼らない、カウンターに頼らない今まさにやろうとしているサッカーができるようになったからだ。

そしてこの両輪を回すにあたって欠かせないのが対戦相手の分析。
自分たちのゲームプランを実践するためには、相手が何をしてくるのか、何をやりたいのかを見極めその対策を打たなければならないからだ。
相手を分析し対策を打つことは単に相手の良さを消すというだけでなく、自分たちの良さを発揮するための手段でもあるというのがロティーナのサッカーなのである。

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