スタジアム | 埼玉スタジアム2002 | 主審 | 西村 雄一 |
入場者数 | 22,640人 | 副審 | 八木 あかね、権田 智久 |
天候 / 気温 / 湿度 | 晴 / 22.6℃ / 55% | 第4の審判員 | 野田 祐樹 |
メンバー
- 監督
- 大槻 毅
- 監督
- ロティーナ
<監督・選手コメント>
浦和レッズ 大槻毅監督セレッソ大阪 ロティーナ監督
浦和レッズ 汰木選手、西川選手、興梠選手
セレッソ大阪 柿谷選手、水沼選手、鈴木孝司選手、田中亜土夢選手、松田選手
明治安田生命J1リーグ第26節、敵地埼玉スタジアム2002での浦和レッズ対セレッソ大阪の一戦は松田陸、田中亜土夢のゴールで1-2で勝利。リーグ戦での連勝を4に伸ばし、浦和戦以外の試合も含め2017年のルヴァンカップ決勝以降埼玉スタジアムでは5連勝となった。
■メンバー
浦和レッズの先発メンバーだが、出場停止のマウリシオに代わって3バックの中央に入ったのは鈴木大輔。またボランチには経験豊富な阿部を置き、両WBには関根と浦和移籍後リーグ戦初先発の汰木という前向きに仕掛けられる選手を起用。またルヴァンカップ鹿島戦セカンドレグで負傷交代し今節は欠場の可能性もあった興梠も先発に名を連ね、ミッドウィークにACLはあるがまずはリーグ戦6試合未勝利から何とか脱却したいという浦和のチーム事情が感じられるメンバーとなっている。一方、セレッソ大阪の先発メンバーは前節から1人入れ替え。外れたのは試合前日にU-22日本代表遠征から戻ってきた瀬古で、瀬古はベンチ入りにとどまりCBには木本を起用。それ以外は前節、いつもと同じメンバーとなっている。
■セレッソの浦和対策
セレッソは試合をコントロールしようとする。足でボールを扱うという特性上完全に排除することは不可能だが、試合をコントロールすることでできるだけ偶然を排除し勝つ確率をあげようとする。試合をコントロールする方法として例えばバルセロナがやっているようなボール保持率を70%にまで上げるというやり方もあるが、そこまで持っていくのは色々な意味でかなり難しい。
ということで、ボール保持だけでなくボール非保持の時でも試合をコントロールしようとするやり方を取る。
そんなボール非保持での試合をコントロールする手段の1つが相手の特徴を消すこと。ヴェルディの監督時代は番記者の方と「相手の特徴を消すことよりも自分たちの特徴を出すことの方が優先すべきではないのか?」といった質問というか議論があったようだが、ロティーナにとっては相手の特徴を消すことは試合をコントロールするための手段であり、それがあった上で自分たちの特徴をいかに発揮するかという考え方なのでこの2つは相反するものではないのだろう。
長い前書きとなったが、この試合でセレッソが行った浦和対策について。
プレビューでも触れたが浦和のビルドアップは3バックの右に入る岩波を中心に、そこがダメなら中央のマウリシオという形で行われる。左の槙野は広島時代やミシャが監督だった時代にも活躍していたようにキックの精度は決して低く無いが、ポジショニングの問題などもありあまり得意ではなく、攻撃のセンスが活きるのは前でボールを受けてからである。
そしてこの岩波を活かすために行われているのが3バックが右にずれる形。
3バックの間にボランチが1枚降りて4バック化する際には、3バックの右に入る選手が4バックのSBの様なポジションを取ることがよくあるが、浦和は4バック化した時はもちろんボランチが下がらず3バックのままのときにも3バックの右に入る岩波だけは右SBの様な位置にずれることが多い。
これは低い位置のSBは守るべき自ゴールから最も遠い位置にいる選手ということになるので、相手から最もプレッシャーをかけられにくいこと。そして4-4-2の守備ブロックの1列目「2トップ脇」に入りやすいこと。そしてさらにトップへの縦パスに角度がつくことにもなる。こういった狙いから行われている形なのだろう。
セレッソの浦和対策 |
セレッソは対3バックでも2トップのスライドでボランチへのパスコースを消しながら外へとボールを誘導させる形を取ることが多いので3人目をぶつけてくるような形を取るのは久々である。
3人になってもいつも通りボールを奪いに行くというよりもプレーを制限することが目的というのは変わらない。それを証拠に柿谷は一旦他の選手のセットが終わるとSHのポジションに戻り4-4-2でセットする。セットすることができれば4-4-2で中を閉めることで十分対応できる。
セレッソは、「ボールを失ったあとに3バックで浮いている岩波からトップの興梠や間で受けようとする2シャドゥへ楔の縦パスを入れること」浦和の攻撃のストロングポイントを捉えそこを防ぐ策をとった。
浦和の前半アタッキングサイド |
浦和はほとんど中央へとボールを入れることができなかった。
■浦和にとっての想定外
浦和の大槻監督は風貌のインパクトが強いのでそこに引っ張られてしまいがちだが、プレビューでも書いた通り仙台時代は分析担当でもあったように相手チームを分析した上で自分たちの戦い方を決めぶつけるのが得意な監督である。なのでおそらく中央を閉められてボール前進はサイドからというのもある程度は覚悟していたはず。
そのため3バックの両サイドの選手から逆サイドへのサイドチェンジを多用し、両サイドのWBに前向きに仕掛けられる関根と汰木を起用してきた。
ただし、セレッソもそこに誘導しているのでサイドからの攻撃では簡単にやられるはずもない。
サイドから仕掛けてくる分CKは4本を与えることになったが、浦和のサイドアタックからはピンチらしいピンチも作られていない。
ということでここまでは両者が行った対策を書いてきたが、おそらくこの辺りまでは両チームの両監督ともに想定内だったのではないだろうか。
しかし大槻監督はセレッソのボール保持/浦和のボール非保持では想定外の部分があったのではないだろうか。
浦和は試合の立ち上がりから前半の終盤まで何度も前線からプレッシャーをかけようとする姿勢がみられた。
計算としては前線からプレッシャーをかけるとセレッソは背後を狙ってくる。それを対人自慢の3バックで跳ね返してそこから一気に攻める、できればオープンな展開に持ち込みたい。大槻監督はこういったプランを狙っていたように思う。
結果としては、前半セレッソのシュート数は2本、枠内1本。浦和にとってはピンチらしいピンチはなかった。
しかしその内容はボール支配率で浦和44%セレッソ56%と上回られ、パス数も浦和の237本に対しセレッソの308本。この構図は想定外だったのではないだろうか。というよりも数字以上に前半は守備がハマっていないという印象を持ったのではないだろうか。シュート数や決定機の数よりも、試合のテンポや展開で試合をコントロールしていたのはセレッソ。浦和はピンチも無かったが、やりたいこともほとんど出来ていなかったように見えた。
セレッソがこういった状態に持っていくことができたのはプレスを回避する仕組みがあるから。
まず前提としてボール非保持の時にサイドに誘導することが出来ているのでサイドで人数をかけて守備をしている。そしてそこでボールを奪った時にそのサイドで人数をかけた状態そのままで逆サイドのSHまでボールを届ける形をセレッソは試合が動いている中でも何度も同じ形を再現性をもってつくることができるようになっているのだ。
セレッソのビルドアップ |
この時必ず、水沼(ボールサイドのSH)は松田(SB)の前に走り(奥埜の場合もある)、デサバト(ボールサイドのボランチ)は横から松田にサポートに入るため、松田には必ず2つの選択肢が与えられている。
そしてここから相手がどう動くか。水沼に対して阿部がついていけばデサバトが空くしついていかなければ水沼が空く。汰木が下がれば松田には時間とスペースがある。さらに槙野が対応すれば奥埜は空く。
こうして決まっている中から松田は最適な選手を選ぶ。そこには即興性やイメージがあう合わないが無いので早く判断を下すことができる。もし全てダメならキム・ジンヒョンにバックパスをして丸橋(逆サイドのSB)で同じ状況を作る。
松田の優先順位としては、最優先はゴールに近づくことができる縦だがそこは相手チームもまず最初に消しに来るところ。なのでデサバト(ボールサイドのボランチ)に出すことが多い。しかしここでボランチに逃がすことができればもう1人のボランチを経由して柿谷(逆サイドのSH)へ。
この時柿谷(逆サイドのSH)はボールサイドに全体でスライドしている分、相手が防ぎにくいハーフスペースと呼ばれるレーン(ボランチの脇のレーン)にいる。さらにその外側には丸橋も上がってくる。
これはまさに前節川崎戦でも書いた、清武が怪我で離脱する前から何度もチャンスを作っていた形であり、セレッソが狙っている形の1つだ。
おそらく浦和としてはもっと蹴り合いの様な状況にしたかったはずで、それをこうしてプレスを外されボールを展開される状態になっていたので「守備がハマっていない」という感覚だったんじゃないかと思う。
そして少し話しは逸れるが、清武離脱後にの左SHにそれまでサブやカップ戦でこのポジションを務めていた田中亜土夢ではなく柿谷が起用されているのも、こうして逆サイドへとボールを展開する形があるからだろう。
前向きで、フリーでドリブルをする時の期待感はかなりのものだ。
柿谷自身にこの戦い方の中での左SHの経験が圧倒的に足りておらずまだまだ迷いながらプレーしているが、それでも今節は前節よりも意図した形でプレーする機会がかなり増えた。今後にはさらに期待できるのではないだろうか。
ということで前半は0-0で終了。第26節までで24回目の前半無失点。
前半は何度かカウンター気味の形でボールを運ばれる場面もあったが、ボールが行ったり来たりというオープンな展開にはなっていないのでCBを中心に対応。最大のピンチはヨニッチからキム・ジンヒョンへのバックパスがずれあわやオウンゴールかという場面だっただろう。
■後半立ち上がり
後半に入ると浦和は少し戦い方を変えてきたのだが、それがはっきりする前の後半開始早々47分に松田のゴールでセレッソが先制する。セレッソの先制点 |
松田は時間とスペースを十分に得た状態でシュートを放つことができたので落ち着いて逆サイドに流し込むことができた。
55分~ |
■浦和の誘いに乗ってしまったセレッソ
荻原投入直後の60分、浦和が荻原の強引に放ったシュートがポストにあたりそのこぼれ球を興梠が詰め1-1の同点に追いつく。荻原には松田がついていたのでかなり強引なシュートだったがそれがポストにあたったこと、そして興梠が至近距離のポストからの跳ね返りという難しいボールに関わらずきちんとコントロールしたことで生まれたゴールだったが、ポイントはその手前。長澤がデサバトと入れ替わる形でボールを前向きに運んだことだろう。
デザインして行ったわけではないが、セレッソがSHで狙っているような形を浦和が作った。
ボランチ2枚がおいていかれたセレッソ |
がしかし、長澤がコントロールミスしたボールを藤田が追いかけた。そしてそのボールを拾った岩波が槙野に預け鈴木大輔に。そして鈴木大輔から長澤に入ったボールに対してデサバトが行ったが入れ替わられ、ここでセレッソのボランチ2枚がおいていかれることになってしまった。
セレッソのボランチはボックス内に入っていくようないわゆる攻撃参加はほとんどしない。中盤のエリアで横移動はかなり多いが、縦移動はほとんどしない。
それをしなくとも、ポジショニングさえ出来ていればボールはつなげるしシュートも打てるからだ。
そして攻撃参加しないことで守備の安定感も産んでいる。
つまりこのボランチ2人の動きが戦術的に大きなキーポイントになっている。
しかしここでは2人共が前に出て入れ替わられてしまった。戦術的にはここの時点でミスが起こった。
そして、この失点場面もそうだが試合はオープンな展開になりつつあった。
セレッソからそうしようとしたわけではなく、浦和がオープンな展開を作ろうとしてセレッソがそれに乗っかってしまったのだ。
オープンな展開となった要因の1つが浦和が後半から守備の形を変えたことだろう。
浦和守備の修正 |
そしてセレッソの2トップ+2SHは3バックと2ボランチで早めにマンマーク気味に捕まえる。
リトリートするまでのWBの役割をはっきりさせることで中もはっきりさせ、浮きがちなSHをとにかく捕まえるという形にしたのではないだろうか。
セレッソがボールを保持し押し込まれてセットする状況にならない限りは両WBが最終ラインに落ちるて5バックになることはほとんどなくなった。
その結果、浦和はWBを高い位置に置くこともできるようになった。前半の汰木に比べると荻原は攻守において松田とのマッチアップだけを考えればいい状態になったことでかなり積極的にしかけてきていた。
そしてセレッソだが、浦和が人を捕まえに来てマンツーマン気味に守るので前線にはスペースがある。
なのでそこに前線の選手を走らせようとボールを送る。
しかし浦和のDFは対人にかなり強い。その結果がオープンな展開という状況になったのだろう。
オープンな展開はどちらにとってもチャンスを作ることができるので、浦和だけではなくセレッソにもチャンスが訪れる可能性はある。
がしかし、浦和がチャンスを作るためにはオープンな展開を作らなければならないのに対し、コントロールした中でゲームを進めることをコンセプトにチームが組み立てられているセレッソにはオープンでなければならないわけではない。
同点に追いつかれたこともあり、前にスペースがあるとチャンスになりそうなので狙ってしまう気持ちもわからないでも無いが、この辺りは今後改善すべきところだろう。
浦和は試合をオープンな状況に持っていきたいから誘っているのだ。
■コントロールを取り戻すセレッソとイエローカード2枚
77分〜 |
77分には浦和が長澤に代えて杉本を投入する。
柿谷が下がる前のラストプレーで、阿部が柿谷を引っ張りイエローカードを受ける。
展開としては奥埜のポストプレーから左のハーフスペース延長上にいる柿谷にボールが渡り、柿谷がドリブルでボールを運ぼうとしたところで阿部が後ろから引っ張った。
プレーとしては確実にイエローカードの場面である。
ただし、おそらく前半の浦和の守り方であれば阿部はこの様な形でカードを受けることは無かっただろう。
阿部がファールをしなければいけなかったのは、マンツーマン気味で守っていることと、早くボールを奪い返して行ったり来たりのオープンな展開を続けたかったからだろう。
そして82分。阿部が鈴木孝司を倒し2枚目のイエローカードで退場。
鈴木は最前線で浦和は人数も揃っていたことを考えると、この2枚目のイエローカードは1枚目以上に軽率なファールだった。が、この少し前からセレッソは徐々に落ち着きを取り戻しており試合をコントロールし始めていた。つまり浦和はオープンな展開に持ち込めなくなっていた。
そしてこの直前にはキム・ジンヒョンからのゴールキックを前線からハメに行ったところで、鈴木に向けてロングボールを蹴られて、奥埜がセカンドボールを拾う。その拾い方も偶然ではなく準備していた形。
ということで138試合連続フル出場の記録を持つ阿部が軽率なプレーで退場してしまうほど浦和にとっては難しい状態だったのかもしれない。
83分〜 |
浦和が1人少なくなったので1-1ならOKと判断し徹底的にリトリートして守るという選択をされるとイヤだなあと思っていたが、この鈴木が倒されたFKから一旦は跳ね返されたもののセカンドボールを拾って再びつなぎ始める。
前線から丸橋、ヨニッチ、木本と順に元のポジションに戻っていく中、松田、水沼、鈴木孝司のトライアングルで槙野、柴戸、荻原の3人を突破すると松田からぽっかりと空いたペナルティアーク周辺のスペースで待つ田中亜土夢へとパス。田中亜土夢の右足から繰り出された狙いすましたコントロールショットがゴールネットを揺らし、セレッソが1-2とリードを奪った。
89分〜 |
浦和はおそらく投入時点では阿部のポジションということだったと思うがすぐにゴールを奪われたということで柴戸が右シャドゥ、青木の1ボランチというような形になってロングボールを多用するもそのまま1-2で試合終了。セレッソが連勝を4に伸ばした。
■その他
1-2の僅差の勝利だったが、個人的にはデュエルではJリーグナンバーワンだと思っている浦和に対して良い試合ができたと思う。反省すべき点はオープンへの誘いに乗ってしまったところ。こういった試合運びに関する部分が改善できれば偶然や運に頼らずにさらに結果を残していけるんじゃないかと思う。
このチームは1人のスーパースターやスーパープレーに頼ったチームではないし、そんなに複雑なことをしているわけではない。なので◯◯マジックみたいな感じで急に強くなったりはしない。しかしその分チームとして改善点をクリアしていけばしていくほどチームのベースアップになるし、それが結果にもつながる。
今季も残り試合が少なくなってきたが、目の前の試合を1試合1試合着実に進めていけばいいのではないだろうか。
分析ありがとうございます。
返信削除失点する間際のシーン、岩波の所でボールを奪えればオフサイドもなく、ゴール前に居る奥埜にラストパスを送り点をとれる可能性が高かったので奪いに行ったこと事態はいいと思ったのですが、ボランチの藤田が奪いにいったことが問題でメンデス・奥埜あたりがやるべきプレーだったのでしょうか、そもそも1-0リードのシーンでボランチは釣りだされず奪いに行くべきではなかったのでしょうか?
ボランチが高い位置に出られないとなると、FWやSHがこういう相手のミスに対し強烈に奪いにいくべきではないかと思います。今年は浦和の他にFC東京や広島あたりがファール気味な強いボール奪取をしていますけど、審判はカードも笛もあまり出さないので、そういうプレースタイルのチームがかなり有利に試合を運べるのではないでしょうか。
そんな訳で次のリーグ戦はセレッソ相手だと無駄に強度の高いネガトラを仕掛けるガンバなのでまた勝てないんだろうなと、良くないことですがそう予測してます。ロティ―ナは前半戦ソウザを使ったように何か策を講じるとは思いますが、奥埜みたいに上手くファールがもらえないとデュエルで負けて押されるのがどうしても目に見えます。
コメントありがとうございます。
削除失点シーンですが藤田が行ったのは良いとしてもデサバトは行くべきではなかったということでしょう。行かないということは待って守備をするということです。
ボランチが出ていかないからSHやFWがというところですが、この場面は相手のミス絡みなので別でしょうけど、世界のサッカーが選手のクオリティに依存せず仕組みで敵陣まではボールをつないで運ぶことができるようになっていっているので、ロシアワールドカップでもその傾向が見られたように今後のサッカーは前から奪いに行く機会はどんどん減っていくと思っています。