2020年シーズンレビューの第3回。今回は2020年シーズンを時系列で振り返ってみようと思う。
大分との激戦から始まった2020シーズン。その後長い中断期間を挟んだが、ダービーを含む開幕3連勝。
第4節の名古屋戦で今季初黒星を喫し、神戸、鳥栖、FC東京に引き分け、さらに第11節には川崎Fとの首位決戦にも敗れたが、シーズン前半の17試合で12勝3分2敗。川崎Fがとんでもないペースで勝ち点を積み重ねたので目立たなかったが、17試合で勝ち点39は素晴らしいペースだった。
前年からメンバーもほとんど変わっておらず布陣も同じ。なので戦い方も2019年から大きく変化したわけではなかったが、ボール非保持の振る舞いで進化を感じさせる部分があった。
■罠にかけるゾーンディフェンス
進化を感じさせたのはゾーンディフェンス。ポジショニングの精度などではなくどう振る舞うかといった部分である。
上記が2019年の形。2トップは相手のDHを背中で消すポジションを取り、DFラインから中盤センターへのパスを入れさせないことが第一目標。そしてMF、DFラインは正しいポジションを取り4-4-2のブロックを形成。これが2019年にリーグ最少失点を記録した最初の立ち位置。
ここからブロックの中にはボールを入れさせず、相手がボールを持ったとしてもブロックの外。サイドからのクロスに関しては高さと強さのある2CBで跳ね返し、SBを引き出されたときのCBとSBの間を誰が埋めるか。サイドを取られた時にマイナスのクロスのコースを誰が消すか。そこまで詰められていた。
しかしこれはゾーンディフェンスでよく問題になる部分なのだが、そもそもブロックの中に入れさせない、ブロックの外でボールを持たせようとするやり方なので、相手がブロックの外でボールを持つことだけを選択すればいつまでもその状況を続けることができる。
具体的にいえば、最終ラインで横パスを回すだけなら延々と続けることができるということである。
2020年は2トップの1枚が前に出てDFラインに対してもアプローチをかけるようになった。実際にFWのタックルラインは2019年シーズンと比べると3m前に出ている。
しかし、1枚が前に出るということは2トップの2人の距離は広がる。となると2トップの間をパスで通される危険も出てくる。
だが、1人が前に出る斜めの関係なので、ボールホルダーに対して正しいポジショニングを取れていれば実際にパスコースとしては2トップが横並びになっている時と同じ幅をキープできるのだ。
ただ、これはどちらかといえばポジショニングの精度の部分。本命はここではない。
それ以上に大きく変わったのは、3バックのサイドの選手や開いたCBに対してSHがアプローチに出るようになったことだろう。
よく見たのは清武が前に出てアプローチをかける場面である。
しかしこのSHが動くというのは、相手にとって4-4のブロックを崩す時の常套手段でもある。
SHを動かしてWBや前にでたSBにボールをフリーにし、そこから斜めのパスを入れることで芋づる式に4-4の守備ブロックをずらしていくことができるからだ。実際にセレッソもボール保持ではこの形をよく使う。
自分たちも狙っている形にも関わらず、SHが前に出ていく形を多用するのはその先の手を打っているから。
相手がサイドから斜めに中へのパスを入れてきたところに2トップの1人がプレスバックをかけてCHと挟み込んでボールを奪い取るという形が頻繁に見られた。
誘って、あえて隙を見せることで相手の攻撃を早め、攻め筋を限定する。いわば罠をかけるという守備である。
特にシーズン序盤は、前年までのゾーンディフェンスのベースの部分に加えられたこの罠をかける形が効果的だった。
■新しい武器、坂元達裕
水沼宏太、ソウザらのビッグネームがチームを去ったが、J1で実績のある加入選手はなし。外国人ストライカーの獲得を目指したがうまくいかずブルーノ・メンデスの期限付き移籍を延長。今季開幕前の補強は地味だった。
しかしそんな中、新加入選手で唯一ポジションを獲得した坂元達裕は大成功。
山形でプレーした2019年はドリブル数、ドリブル成功数共に左利きの選手としてはJ2ナンバーワンのスタッツを残しており、カットインだけでなく縦に仕掛けて右足でのクロスもある。内側を向いてプレーできる左利きの右サイドアタッカーを欲していたセレッソにとってまさにうってつけの資質を持っていた。
チームは右サイドの大外で得意の1対1ができるように設計しボールを届ける。そして坂元もわかっていても止められないキックフェイントからの切り返しでチャンスを作る。チーム戦術が選手を助け、選手がチームを助けるという幸せな関係だった。
2020年の代表戦は海外組のみの活動となってしまったが、例年通り国内組を招集する機会があれば選ばれていた可能性もあったんじゃないかと思う。
ただし、課題ももちろんある。全試合フル出場を果たしたキム・ジンヒョン、マテイ・ヨニッチに続きチーム3番目、アタッカーとしてはチームトップとなる先発33試合(途中出場0)2750分の出場となったが得点につながった結果は2得点8アシスト。特に得点数が物足りない。
そもそもシュート数も32本と1試合平均1本を打てていない。
ワイドでプレーする機会が多い影響もあるのだろうが、左利きゆえにカットインからのシュートという形ももっと作れるはずで、来季以降はもっとシュートの場面を増やしてほしいところだ。カットインからの得点が増えればさらに縦への突破も効果的になるだろう。
■クラブの総合力を問われた後半戦
シーズン前半の17試合を12勝3分2敗の成績で駆け抜けたが、後半戦になると一気にペースダウン。第17節(第24節が前倒しで行われたのでこの試合から後半戦)以降の11試合が3勝1分7敗。大きく負け越した。
この中には誤審によるものといった不運な黒星もあったが、それ以上にクラブとしての実力不足を感じさせた。
そう感じさせた要素の1つが選手層の薄さ。
予算規模がJ1でも中位程度なので仕方がない部分もあるのだが、そこに過密日程が加わったことでより顕著化した。
例えば2020シーズンのリーグ戦で1000分以上出場した選手の数はリーグで2番目に少ない13人。リーグワーストは鳥栖の12人なのだが、鳥栖は13番手以降で900分代の選手が3人続いているのに比べ、セレッソは13番手ブルーノ・メンデスの1477分に続く14番手柿谷曜一朗は752分まで少なくなる。
ちなみに2019年は14人。なので日程が厳しくなったにも関わらず、より選手が固定化された=層が薄くなっていたと言える。
またシーズン中の補強も0。出した選手は出場機会を考慮しての若手選手の期限付き移籍がほとんどだったが、開幕前に戻してきた選手も多く見込みの甘さを感じさせた。さらに獲得した新外国人選手もシーズン途中で放出。CHやCBなどはバックアッパーが他のポジションと重なっていた様に明らかに層が薄いポジションがあったのだが、それでもシーズン中には動けなかった。
開幕前の想定ではルヴァンカップを利用して若手や新加入の選手に出場機会を与えながらという皮算用だったのだろうが、異例のシーズンとなったことでその機会も激減し思惑は外れてしまった。
予算規模を考えると仕方がない部分もあるのだろうが、上位を争うには厳しい。
■罠が首を絞めることに
選手層や負傷離脱によって大きな影響が出たのは、先に書いた「罠」が機能しずらくなったことだろう。
SHが前に出た後、CHとFWのプレスバックが挟み込んでボールを奪えないことが出てきたのだ。
それが顕著に現れてしまったのが第28節の広島戦。この試合ではデサバトが首のヘルニアの影響で離脱しており、奥埜も負傷がありベンチスタート。CHは藤田と木本、FWは都倉と豊川でスタートしたが、ミスマッチをうまく使うことで4バックに対しては無類の強さを見せる広島に対してレギュラー2人を欠く4-4-2はかなり分が悪かった。
失点は何とか1に抑えたが、ロティーナが指揮した2シーズンで最も苦しい内容だったのがこの試合の前半だったと思う。
そしてこの試合の後半から取り入れたのが5バック。部分的に採用することもあったし、シーズン前半のアウェイ神戸戦でも退場者を出した影響で途中から使っていたが、基本的には2019年の序盤で捨てた5バックを2020年の最後に再び使うこととなった。
ただしこれはある意味、フォーメーションの得手不得手ではなく、ゲームモデルや原理原則でプレーできるようになったという成長を感じさせるものだったと思う。それを象徴するのが単なる5バックではなく5バック/4バック可変システムだったことだろう。
キーマンとなったのは右WB/右SHの片山。片山は自分の前にボールがある時は従来通り4-4-2のSHとしてプレーする。
しかし逆サイドにボールがある時、もっと具体的にいえば、左SHの清武が前に出て相手の攻撃を誘い出した時にそのまま逆サイドに展開されても対応できる様、片山は松田の外側に予めポジションを下げるようにしたのだ。デサバトが札幌戦で一旦はベンチに復帰するもまた別の怪我で離脱し、それまでFWで効果的な動きを見せていた奥埜をCHで起用せざるをえなくなった中で編み出した落とし所だった。
大分戦のスターティングメンバー発表の時、松田と片山を反対のポジションで予想した人も多かったのではないかと思う。
しかしこのボールサイドでWBとSHと自身の役割を変えるこのポジションは運動量とインテンシティを兼ね備えた片山にうってつけのポジションだった。
この形を採用した第29節以降は3勝2分1敗。前半戦のペースを取り戻すまでには至らなかったが、怪我人もあり、さらには来季の監督の去就についての報道が出るという難しい中での試合だったが何とか立て直し、プレーオフからとはいえACL圏内となる4位フィニッシュに持ち込むことができた。
次回は最終回。チームを去った監督や選手について。
そして1月22日のチーム始動以降にいよいよ2021シーズンについてに触れていきたいと思う。
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