2021年6月7日月曜日

シーズンの半分を経てたどり着いた3バックと現在のチームの立ち位置


 セレッソ大阪は明治安田生命J1リーグ第17節ベガルタ仙台戦でそれまでの4バックから3バックに変えて戦った。

3バックを選択した理由を通じて、現在のチームの立ち位置、そして現実的な目標を考察する。


■ボールを運べないセレッソ

セレッソ大阪は開幕からボールを運べないという課題を抱えていた。

開幕直後の3試合は大久保嘉人の驚異的な決定力により得点は奪えていたが、SBから相手DFラインの背後に狙う攻撃だけでは単調すぎる。そしてなにより清武弘嗣にいい形でボールが入らない。ボールが行ったり来たりする展開も多く、失点もかさんでいた。

そこで4試合目の清水戦から清武が低い位置に降りてビルドアップを助けるようになる。

その結果、行ったり来たりの展開は多少減ったことで、昨季までの武器の1つであった4-4-2のブロックを敷くことができる時間帯が増え失点数は減ったが、今度は得点が奪えなくなる。

そもそもビルドアップを清武を下げるという「人数」で解決した形なので当然といえば当然。そして自陣で4-4-2のブロックを作ることで守備は安定したが、その反面SBが高い位置に出られなくなったからである。


■分岐点となった鹿島戦の前半

勝てない試合が続く中、第16節の鹿島戦でチームはこれまでとは少し異なる姿を見せた。

守備時は自陣で4-4-2のブロックを作る。そしてボールを奪えば清武に預けそこに原川と丸橋がサポート。清武がこの2人がサポートに入るまでの時間をボールをキープすることができれば攻撃に入る。ボールを奪われてしまえば再び撤退する。チームで最も時間を作ることができる清武の能力を使ったやり方である。

清武は狙われている状況でキープしないといけないので、難易度は高くチャンスの数は少ないかもしれないが、他の選手の動きは限定的なのでリスクは少ない。

ボールを運ぶことを清武のキープ力に依存したのだ。

少ないチャンスを決めよう、試合をクローズさせようという戦い方で、清武の負担は大きいがチームの長所と短所を踏まえると十分理解できる戦い方だったと思う。


しかしこの形は前半のみで終了。後半からはボールをどんどん前に付けるオープンな戦い方に変えた。

おそらく前半の形はピッチ内で選手が考えたもの。そして後半からそれを変えたのはクルピ監督の判断だろう。

クルピ監督のチームでは選手間で調整することは認められている、というよりも求められている。しかし最終的に決断するのは監督。監督が不十分だと感じれば変える。それがこのチームの通常の流れである。クルピ監督は前半のクローズな戦い方では不十分であると考え、オープンな試合になるように変えたのだろう。

この判断は「攻撃的なサッカー」にこだわりを持つクルピ監督の哲学に関わる部分。

そしてクルピ監督の考える「攻撃的」とはどうやら「前線に何度もボールが入り決定機を多くつくること」の様なので、前半からの変化を決断したのだと思われる。


■なぜ3バックなのか

この鹿島戦から中3日で迎えた仙台戦でセレッソは3バックに変更する。

時間がない中、いわばぶっつけ本番に近い形での変更となったが、決断のきっかけは鹿島戦の前半だと思われる。

ではなぜ3バックだったのか。

その理由は至ってシンプル。両SBを高い位置に出したかったからだろう。

4-4-2から3-1-4-2ということで大きく布陣が変わった様に見えるが、クルピ監督としてはSBを高い位置に出したかった。そのためにCHを1枚最終ラインに下げた。変えた理由としては単純にこれだけだと思っている。

なので仙台戦でも試合途中に原川に代えて大久保を投入し奥埜をCHに入れるという決断を下した。これが仮に4-4-2で瀬古と原川の2CHから瀬古と奥埜の2CHに代えるというならばそれほど違和感はないはずだ。

過去クルピ監督がチームを率いていた2007年から2011年にも4-4-2から3-4-2-1そして4-2-3-1とシステムを変化させていったことがあるのだが、変化を決断するきっかけとしてはいずれもシンプルなものだった。


クルピ監督のサッカーにおいてボールの逃し場所にも、攻撃の起点にもなるSBの高さは生命線である。

SBを上げるために例えばビルドアップの形を整備しボール保持の形を整えるというアプローチもあるが、クルピ監督のアプローチは最初からそうなりやすい様にして、そこからチーム内で調整するという形。それがCHの1人をCBに下げてSBをWBにするという布陣変更だった。


そしてこの仙台戦では見事に松田陸と丸橋は高い位置を取る機会が増え、30m侵入回数も、ペナルティエリア侵入回数も増えた。「手応えを感じている」との発言も理解できる。


■今後の課題

今後セレッソはこの3バックがベースとなるだろう。

そしてセレッソのこの3バックへの変更は、根本的な戦い方も変えていくものになると思われる。

というのも、仙台戦でもあきらかになったようにブロックを作る守備の安定感は確実に落ちるから。アンカーの脇をどう守るのかという問題は今後つきまとうだろう。なので昨季までの長所の1つで、鹿島戦の前半に拠り所にしていた堅い守備ブロックはおそらくこのままなくなる。


しかしこれはある種当然。当たり前の話しだがサッカーは攻撃と守備はもちろん全ての要素はつながっている。

昨年も何度も書いてきたが、自陣で4-4-2のブロックを作って守るという方法は、奪ったボールを自陣から運ぶことができることとセットで成立していた。ボールを運ぶ手段を持つことで、高い位置からボールを奪いに行くというリスクを負わなくてもいいようにしていた。

しかし今季はボールを運べない。となるとできるだけ低い位置で守る時間を減らしたい。むしろ、攻撃に移るためにはできるだけ高い位置でボールを奪い返したいというチームになる。

ということで今後は、2トップ+清武、坂元の両サイドの前線4人で高い位置から如何に守備に入れるか。そしてどれだけ高い位置でボールを奪い返すことができるか。

もちろん攻撃面での課題もあるが、新しい布陣を機能させるためにまず最初に必要なのは、高い位置からの守備を機能させること。ここの調整が急務となってくるだろう。


■チームトップの責任と現実的な目標

この中断期間まででシーズンのほぼ半分にあたる18試合を消化。

チームとしては、ここで昨季までのやり方は無くなり、新しいやり方にトライしていくこととなった。

社長やチーム統括部長が開幕前に語った「昨季までの堅守をベースに攻撃力を上積みする」という部分は頓挫した。そして「最低トップ3、3位以内がノルマ」という部分も、現状やここまで来るのにシーズンのほぼ半分を使ったことを思えば正直かなり厳しい。

シーズンの半分を使いながらもまだほぼスタート地点にいるのだ。

彼らが語った目標を真に受けるならここまでは失敗。彼らの責任は重い。


ただ、こうなっていくことは開幕前から予想できた。

寂しいことではあるが、彼らが語った目標は絵空事。目標ではなくあくまで希望。「そうなればいいな」という程度のものでしかないという受け止め方をしていた人も多かったんじゃないだろうか。

とはいえシーズンは続く。寂しい予想が現実のものとなったが、シーズンはまだ半分。残り半分もあるし、ACLも天皇杯もルヴァンカップもこれからである。


そんな中で、チームの状況を踏まえ現実的な目標としては、まずは3バックでチームを機能させる形をみつけること。現時点での順位は10位となっているが、直近5試合で獲得した勝ち点2という成績はJ1の20クラブ中19番目。セレッソよりも勝ち点を奪えなかったクラブは柏レイソルしかない。

ここをまず勝ったり負けたりという状態に持っていくためには、3バックを機能させる形を見つけることが最優先である。

その上で最終的には、もちろん絶対的な目標はJ1残留ということにはなるが、現在の中位をキープすること。これが現実的な目標となるのではないだろうか。


これまで何度か「目線の高さをどこに合わせるか」ということについて書いてきたが、現時点で開幕前に社長やチーム統括部長が語った「3位以内がノルマ」に合わせるには流石に無理がある。

今後はこの現実的な目標に合わせて書いていこうと思う。


6 件のコメント :

  1. 何時も有難う御座います。頭の上の曇天が少し晴れた感じで今のセレッソを理解しました。しかしフィールドの外人総入れ替えとは言え何故こんなに前に運べなくなったのか不思議です。今更ですが去年の安定感が恋しい。。

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  2. いつも楽しく拝見してます。勉強にもなりますし、試合後の考察が素晴らしいと思ってます。仙台戦は、手倉森さんにとって奇襲だった気がします。ただ、仙台も調子が上がってきている状況だったので、守り方をいじらなかったですよね。システムにこだわるのがクルピらしいとも思いますが、あの3バックでは上位とは戦えないですよね。個人的には、ロティーナが去年やっていた可変式3バックが敵も困惑するしボールも前に運べるし、好きだったんですけど。片山選手を手放したチームには怒りすら感じます(笑)。それに、3バックの欠点が丸出しだと思いますがどうでしょうか。まず、ダンクレー選手ですが、TOPに入ったボールに対して喰いつきすぎです。ペナ外では、1対1が強いから待てばいいのにパスカットしようとしすぎです。仙台戦でも2回ほど喰いつき失敗がありましたよね。チアゴ選手は、つけるパスが不安定というか雑ですよね。あと足が遅いというか鈍いというか。ブラジル人長身選手のありがちなそれです。ヘディングが強いのが魅力ですが・・・。自分が監督だったらダンクレー側とチアゴ前でスピードにたけたFWを配置しダンクレーと瀬古の間をつくように指示します。あと、タガートですがこちらも・・・。まだコンディションが上がってないかもしれませんが、メンデスとは明らかに違いますね。前でボールが収まらない。後、トラップが大きい。完全にBOXの中の選手で、1TOPには不向きだし、古いかもしれませんがやっぱりポストプレー型の相方が必要ですね。前に運べない現チームだと本当につらい。降りてきてゲームを組み立てるポテンシャルは無いでしょうし。

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  3. お疲れ様です。
    3枚にしたCBとその目的の部分ですが、多くの監督が攻守のバランスに重きを置くためそこを可変で補うことで対応している中レヴィーは固定で行くということですね。
    そしてあくまで立ち位置、スタートポジションは決まってもそこから先の選手のアイデアと微調整しかカードが無いことも特徴ということですね。
    やはりブラジル式というか、ブラジル式にしてももう少し近現代サッカーの戦術要素を落とし込む監督はいるでしょうに。ジーコジャパンのウィークポイントでもあった、日本人は規律と決まったことをやると正確だがアイデアや閃き、個人の力を倍にするための連携に課題といった部分が今まるまる出ている感じですね。
    セレッソはたびたびこういうサッカーから欧州型へシフトを試みては失敗する系譜がありますよね。原因は鹿島やガンバのように勝利至上主義的な考えでなく点が入り客の入る攻撃サッカーにしたいことやそのために押している感じを出せるポゼッション率に異常に拘る、いわばエンターテイメント要素に重きを置くフロントスタッフが多いことと、単純に欧州型戦術サッカーに長けた知識と戦術的な監督にパイプを持つ人がいないことでしょうか。
    まあ何をいったところでロティーナセレッソ2年目より点も取れてなければ勝てていないわけなのでたとえカップ戦を獲ろうともシーズンオフにフロントの引責辞任は免れないでしょうが、フロントに勝つために何が必要かを考えられる人が来るまでセレッソはずっとこんな感じなのでしょう。

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  4. ロティーナ時代もビルドアップでは苦労する場面が多くて、対策してくるチームには特に押し込まれてしまうということがあって、なかなか改善しなかったと思うんですけど、どうなんでしょう? チアゴ、ダンクレーになって、直接SHに付けれるようになった点は評価できるかなと。


    ただ、クルピのアバウトな組み合わせサッカーについて、フロントはどう考えているんでしょうね? これで常勝チームになれるような気が全然しないんですけど。

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    1. ロティ―ナ政権下でのビルドアップはJ全体で見ても最も安定していたと思いますけどね。前から来られても平気で裏返していましたから。

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  5. 昔に戻ったなwww懐かしい

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