スタジアム | ユアテックスタジアム仙台 | 主審 | 佐藤 隆治 |
入場者数 | 10,931人 | 副審 | 三原 純、清野 裕介 |
天候 / 気温 / 湿度 | 雪 / 3.6℃ / 77% | 第4の審判員 | 五十嵐 泰之 |
メンバー
- 監督
- 渡邉 晋
- 監督
- ロティーナ
<監督・選手コメント>
ベガルタ仙台 渡邉晋監督セレッソ大阪 ロティーナ監督
ベガルタ仙台 大岩選手、吉尾選手、ハモン・ロペス選手
セレッソ大阪 都倉選手、田中選手、清武選手、奥埜選手
国際Aマッチウィーク開け、2週間ぶりに敵地ユアテックスタジアム仙台で行われた明治安田生命J1リーグ第5節ベガルタ仙台対セレッソ大阪の一戦は0-2でセレッソ大阪が勝利。
今季北海道から加入した都倉と、昨季フィンランドから加入した田中亜土夢という共に雪が降るチームから加入した選手が、雪の降る中の一戦で移籍後初ゴールを決めた。
■メンバー
ベガルタ仙台の先発メンバーは前節からなんと5人を入れ替え。前節からシャドウの梁、石原直樹。ボランチのシマオ・マテ。右WBの蜂須賀。左CBの永戸が外れ、吉尾、ハモン・ロペス、富田、道渕、金正也が起用されている。昨季終盤から負けが混んでおり今季もここまで1分3敗で最下位。ということで中断期間にはメンバーを入れ替えながら紅白戦をおこなっていたそうで、石原直樹は怪我による離脱とのことだが、他の4人に関しては戦術的理由。調子の上がらない仙台の苦しい状況が透けて見える。
一方セレッソ大阪の先発メンバーは前節から1人のみ入れ替え。
前節の負傷交代後別メニュー調整が続いているとの情報があったデサバトはベンチ外となり、代わりに古巣対決となる奥埜が入っているだけ。こちらもリーグ戦3連敗で結果は伴っていないが、内容は試合を重ねる毎に上向いているので継続路線といえるだろう。
■両チームの立ち位置とマッチアップ
マッチアップとひし形 |
ということで同じ3-4-2-1かつポジショナルプレーでミラーゲームとなる。
そして共に狙っているのは中央レーンの両脇にあるハーフスペースの奥にボールを送り込むこと。そこにボールを運ぶために3バックのサイドの選手、WB、ボランチ、シャドウの4人でひし形を共に作っている。
ただ、共にマッチアップがあうミラーゲームとなっているので起点となる3バックの両脇の選手にいかにしていい状態でボールをもたせるか。そして目的地の手前ハーフスペースには相手3バックの両脇の選手がいるので、この選手をいかにして動かすかがポイントになる。
4バック化 |
4バック化することでヨニッチの前に吉尾が立つことになり、それで吉尾を惹きつけた分その外側や背後で片山をフリーにするという形がみられた。
この図ではセレッソのみだが仙台も同じ様に4バック化から金正也や平岡に時間を与えようというプレーを行っていた。
ポジションチェンジ |
仙台がこの試合で両サイド共にアタッカー的なWBを起用してきたのはこれが狙いだろう。そしてこの2つによって仙台はこれまでの試合に比べてボールを繋ぐことができていた。
■仙台とセレッソの小さな違い
ここまで共通点もかなり多い両チームのボール保持だが少し異なる点もあった。それは3バックの1人のキャラクター。仙台はここまでのリーグ戦4試合では3バックの左に永戸を起用しボランチの1人が最終ラインに落ちて4バック化したときにはSBの様に大外レーンを前に出る動きを見せていたのだが、この試合で3バックの左に入ったのはCBタイプの金正也。ということでボランチが最終ラインに落ちてもその目的は主に後方でのボールポゼッションを安定させる目的で金正也が大外レーンを前に出ていく回数は少なく、基本的にはハーフスペースで起点になるプレーが続いていた。
ローテーションを多用したセレッソ |
ということで大外レーンでのプレーもできるので、ひし形の右側に片山が入って底にはボランチ、頂点に松田で左に柿谷という形の変化もあった。
先程も書いたように、仙台は永戸では無く金正也を起用しさらに両WBにアタッカー的なプレーもできる選手を起用したことでボール保持が安定したという側面もありそうだが、一方でこれまで見せてきた永戸が大外レーンに移動する変化は無くなった。
この永戸から金正也への変更はボール保持が目的だったのか、それともそれは副産物的なもので守備の安定が目的だったのか。それとも永戸高さが無いので都倉がいることを考えてCBタイプの金正也だったのかはわからない。
そしてこの試合では15分にハモン・ロペス、18分に長沢と決定的な形で最初にシュートを放ったのは仙台で、そのどちらもがヒューマンエラー的なミスだったのだが、これをしのぐと先制したのはセレッソ。
35分に松田の折返しを都倉が移籍後初ゴールを決める。
この先制点はまさにここまで書いたサイドでのひし形を使った理想的な形だった。
まず奥埜が最終ラインに下がって4バック化、さらにソウザがその前にいる4-1-5の様な形(柿谷が大外、松田がハーフスペースとこの2人はポジションを入れ替えている)がらスタートするが、ソウザから片山にパスを出したところでソウザはすぐさまポジションを移動し松田を頂点としたひし形を作った。
するとここからひし形を変形させながらボールを動かす中で一旦松田が下がってくる。
この動きに松田とマッチアップしていた金正也は、一旦だれも見ていない状態になる。
そこで一番近い位置にいたソウザを確認しているのだが、ここから松田がさらにハーフスペース金正也の裏に飛び出す。
この飛び出した瞬間、松田に最も近い位置にいたのは兵藤。なのである程度ついていくのだが、おそらく兵藤は後ろのスペースは金正也がカバーしているもんだと思っていたのではないだろうか。
しかし金正也が見ていたのはソウザ。なので完全に松田がハーフスペースをフリーで抜け出し、グラウンダーの折返しを都倉がゲット。もしかすると柿谷のパスだけに注目が集まるかもしれないが、グループとして狙い所を定めて形を作って崩すという非常にクオリティの高い形だった。
■大きく違った守備の考え方
ここまで両チームの共通点を中心に書いてきたが、この2チームには大きく異なる点があった。それが守備に対する考え方。
試合後の両監督のインタビューでも触れられているが、仙台はより人への意識が強く、セレッソはよりスペースへの意識が強い。
セレッソが勝利したので当然といえば当然なのだが、ボールポゼッション、シュート数、パス数、パス成功率など様々なスタッツで少しづつセレッソが上回った。
左:ベガルタ仙台 右:セレッソ大阪 |
アタッキングサードでのプレー数は仙台の206回に対してセレッソは216回。10回の差しかないのだが、ペナルティエリア周辺の合計では仙台の38回に対してセレッソは69回。この差を生んだのがまさにこの守備の考え方だっただろう。
そしてこれを象徴しているのが先程のセレッソの先制点のシーン。
人への意識が強い仙台の守備に対してセレッソはひし形を作り、さらにローテーションしながらひし形を変形させる。この動きに対して金正也は捕まえるべき選手を見失い、一番近いソウザについたところで松田が出てきて完全に抜け出された。
さらに後半になると仙台はセレッソのWBに対してWBが素早くアプローチに出るようになる。
これはセレッソが前半から同サイドでのひし形のホール保持からサイドチェンジという形も多く見せていたのでそれに対応しようという意図があったのだと思われる。セレッソには丸橋、ソウザとワンステップで逆サイドまで速いボールを届けられる選手がいるからだろう。
ただこれによってセレッソは後半の立ち上がりに3バックの右に入る平岡の背後に都倉が、金正也の外側に柿谷が流れる形でチャンスを作っている。
一方でセレッソは、仙台もポジションチェンジで攻略しようとするがスペースを埋める意識が強いのでペナルティエリア内には侵入させない。
スペースを埋めるというのは中を締めること。なので締めている部分以外にはスペースはある。そのため、仙台がボールを繋ぐ場面が多かった前半の序盤は、セレッソの2列目の4枚の前で仙台のボランチがフリーになってボールを受けたり、後ろから出てきた金正也が基点となっていた。
しかしそこでボールを持たれても、そこを基点にゴールへの最短距離を中心に守備組織を作るのでボックス内への侵入を許さなかった。
なので、前半にあった仙台のいくつかのチャンスを詳しく見るとそれらはFKとヒューマンエラーによるものばかり。意図的にペナルティエリア内に侵入されチャンスを迎えたシーンはほぼ無い。
ただもちろん渡邉監督のとった人への意識が強い守備というのが全くの間違いという訳ではない。実際に昨季のJ1参入決定戦ではロティーナ率いるヴェルディは磐田の人への意識が強い守備になにもさせてもらえず敗れている。
しかしこの試合ではセレッソが仙台の人への意識が強い守備を逆手にとって攻略し、さらにボール非保持ではスペースを消してチャンスを作らせなかった。
■選手交代の意図
67分〜 |
柿谷がこの時間帯で代わるのは今季最短のプレータイムなのだが、これはスペースを埋める守備のはずが人に引っ張られる形が続いたから。
その前から兆しは見えていたが、決定的なきっかけは54分のシーンだろう。
人に引っ張られる |
そしてこの動きをきっかけにそれぞれの選手が人へをついていくのだが金正也がフリーとなっているので全て後手となる後追い。そして最後は金正也から吉尾へ斜めのパスが出て、そこからさらに石原崇兆へ。
石原崇兆からのクロスを道渕が頭で合わせ、さらにそのこぼれ球を吉尾が狙うも枠外となりこの攻撃が終わるのだが、完全に崩された場面である。
敵陣からアプローチをかける時は人が基準になるので人に行く全てが問題なのではないのだが、スペースを埋める守備との切り替えが緩慢になっていた。
さらにここから人に引っ張られた形が続き、また柿谷にも疲れが見えていたことから田中亜土夢との交代を決断したのだろう。
そしてこの交代から5分後の72分。高い位置から富田にアプローチをかけた奥埜がそのボールを奪いきり清武へ。その瞬間、清武、都倉、田中亜土夢の3人対仙台は大岩、平岡の2人の状況になっており、清武からパスを受けた田中亜土夢がゴール。
セレッソが0-2とリードを広げた。
ここでボールを奪った奥埜はこの試合で両チーム最長、今季のリーグ戦でも4番目に多い13.345kmの走行距離を記録している。正直走行距離が長いのは単純にすごいことでもあるのだが、肝心なのは動きの質であり量ではない。しかしこの試合の奥埜は、こうして敵陣では前線からアプローチをかけ、さらに自陣にボールを運ばれるとスペースを埋めることを繰り返していたので、質と量が両立したというか、量で高い質を生み出していたので素晴らしいプレーを見せていたといえる。
73分〜 |
2枚替えで交代枠を使い切った仙台は前がかりになろうとするが、セレッソはボール非保持時に、敵陣ではアプローチ、自陣では守備組織を作り、さらにボール保持ではしっかりとボールを繋ぎポゼッションを高めながら試合を運ぶことで試合をコントロール。
89分〜 |
■その他
内容は上向いているものの結果が伴わないという試合がいくつか続いていたが、この試合では内容と結果が伴ったまさに狙い通りの勝利だった。3月末にもかかわらずピッチは雪で真っ白になるというコンディションだったが本当に良いゲームをしたと思う。
あと、前節の記事で都倉のポジション云々について書いたが、この試合では見事に移籍後初ゴールを決めた。
ただ、やっぱり都倉はひし形の頂点となるスペースに人を連れてきてしまったり、できることが少なかったりする。ポゼッションが不安定な中だと身体の強さや高さはかなり大きな武器ではあるのだが、もしこのまま1トップで起用を続けるのなら、このあたりはもう少し改善して欲しいところではある。
それともう1つ。ここまでセレッソは3-4-2-1を続けているのだが、試合を良く見ていると、片山が右SBで丸橋が左SB、松田が右SHの4-4-2に近い動きを見せている時間もある。
なので基本的なゲームプランは同じだが、相手や状況によっては発表される布陣は4-4-2となることもそれほど遠くないタイミングであるかもしれない。
■ロティーナの発言を読み解こう
久々にこのコーナーが復活。まずは質疑応答の前にある
「それでも、後半はエラーで相手にチャンスを与えてしまった。」
という部分から。
このエラーとは本文中にも書いた人に引っ張られた状態のことを指していると思われる。
ロティーナはヴェルディ時代のインタビューで
「失点は3つのタイプに分類できる。1つ目が「避けることのできない失点」で、ゴラッソ(スーパーゴール)が典型だ。2つ目は、例えばGKのパンチングミス、CBのクリアミスなど「ヒューマンエラーによる失点」で、シーズンにおいて一定数ある。3つ目が「避けることのできる失点」。ポジショニングミス、カバーリングの遅れなどに起因するもので、守備の戦術コンセプトを知っていれば、実行していれば避けられたゴールだ。」
と語っていたが、失点ではないが前半のピンチは2つ目にあたるヒューマンエラー。後半のピンチは3つ目の「守備の戦術コンセプトを知っていれば、実行していれば避けられた」ピンチである。なので前半のピンチには言及せず、後半のピンチについてのみ語っているのだろう。
次に質疑応答から
Q:今節はベンチに攻撃的な選手が多かったですが、1人目の交代カードとして田中亜土夢選手を選んだ理由と、どういったプレーを期待して投入しましたか?
「亜土夢はまず、我々の求めていることへ適応する能力が高い選手です。もしかしたら、よりゴールが必要な状況であれば、トシ(高木俊幸)を選んでいたかもしれません。ただ、あの場面では、よりボールをキープできる選手、ディフェンス面でプレッシャーに行ける選手、(相手の)内側へのパスコースを締めることができる選手、そういう選手が必要だったので、そういった意味で亜土夢を入れました」
と田中亜土夢の投入について語っている。
ここで3番目にあたる「相手の)内側へのパスコースを締めることができる選手」というのは先程のエラーについてなので割愛。ここでは「よりボールをキープできる選手」という部分について触れたい。
この時間帯は仙台がチャンスを作っていたが、実はセレッソもチャンスを作っていた。なので考え方としては守備を徹底させながら高木俊幸を入れて打ち合いに持ち込むことも可能だっただろう。失点するかもしれないが得点を奪う可能性も高かったはずである。
そしておそらく質問者はここで山下などの守備的な選手を投入することもできたのではないか?ということも頭にあったのだろう。
しかしここでロティーナはボールを持てる田中亜土夢を選択。つまりオープンな展開になりかけていた流れを良しとせず、その止め方にボールを持つことを選択した。このあたりはロティーナのサッカー観が表れていると感じた部分だった。
素晴らしい解説ありがとうございます。
返信削除我らが8番の交代に疑問があったので、記事を読んで納得できました。
ロティーナとイバンのタッグで本当にセレッソの試合が楽しみです。
コメントありがとうございます。
削除今季のセレッソはいろいろ発見などもあって面白いですね。
遅攻での得点はいつ以来でしょうか、1点目の崩しは解説通り見事でした。
返信削除ピッチが雪のせいか、パススピードの遅さが浦和戦に比べて目立つと感じました。例として14分の奥埜から木本へ横パスをしてハモンロペスにとられた時のシーン、奥埜が出した横パスもいかにもインターセプトしてくれという弱さでしたがその前の柿谷のバックパスも弱くてカットされそうな危ないパスだと感じました。
浦和戦はとても気分の悪い逆転負けでしたけどパス回しの部分が広島戦に比べてかなり改善されていたので結果が悪くても文句はありませんでした、しかし2週間も空いたのに今回は前の試合に比べ改善できてないのがやや気になります。現状のセレッソのパス回しの習熟度だと、ディフェンシブサードでパス回しする時のヒューマンエラーやミス、そして弱いパスを狙われての失点の危険性がかなり高いと感じるのですが、パススピードはこれ以上上げれないものでしょうか?
パスに関しては単純に雪のせいでは?それと気温が低い影響もあると思います。
削除コメントありがとうございます。
削除確かに奥埜からのパスはミスでしたが、パススピードは単に速ければいいというものではないですからね。
そのあたりも認知の問題なのであわてず改善していくことに期待しましょう。
いつもお疲れ様です。
返信削除舞洲ではイバンがサイドの選手が内を向いて受けた際にインナーラップで上がって数的優位を作り、シャドーの選手との連携でCBを食いつかせて裏のスペースを使うという形をゲーム形式とは別でやっていたし、その形も見られていたと思います。
仙台はポジショナルプレーをやりたいんだとは思うんですが、やれなかったときにロングボールをハモンに出したりしていて、よく言えば戦術の変更、悪く言えばブレ、といった印象で、細かな部分の精度まで突き詰められていない印象でした。
言ってしまえば失礼にあたりますが、チーム習熟度が低い。そういうチームであれば理想的な形を作れ、勝てるんだなと思います。
次の川崎や、名古屋のようなチーム相手でも同じ形が作れれば結果はついてきますが、攻撃は引き出しを増やしたいですね。
片山選手ですが、対人守備や空中戦はそこまで精度が高くなく、足元に技術があること、一般入試で早稲田に入るぐらい頭がいいということも考えるとボランチか、サイドバックのほうがあってるのかもしれませんね。
あと、田中亜土夢選手ですが、舞洲のゲーム形式の練習でも動きがよく、何度もシュートを決めていたので、単純に調子がいいのと、戦術的にフィットするんでしょうね。リトリートからのポジトラで動き出しも速かった。新潟やフィンランドで雪の試合にも慣れていたのかもしれませんね。
コメントありがとうございます。
削除いろいろ教えていただきありがとうございます。
片山はボランチだとちょっと危ない気がしますが、身体能力が高いのでプレッシャーがかかりにくく方向が限定されるSBは向いてると思います。