6月24日からタイで行われたAFCチャンピオンズリーググループステージ。セレッソ大阪は4勝2分の無敗でグループJを首位で突破することに成功した。特殊な環境での戦いとなった今回のACLグループステージでは、結果はもちろんいくつかの収穫もあったのではないだろうか。
■異例づくしのACLグループステージ
2011年の初出場から11年間で4度目の出場となるAFCチャンピオンズリーグ。昨年から続くコロナ禍の影響が2年目となり多方面に広がったことで、今大会はこれまでにない異例づくしのグループステージとなった。
度重なる日程変更とセントラル開催。中国勢に財政問題が発覚しカップウイナー山東の大会除外およびリーグチャンピオン江蘇の解散と参加チームのセカンドチーム派遣。日程変更によるオーストラリア勢の参加辞退。これだけでも十分なのに、ここに今大会から始まったACLの参加チーム拡大(グループステージが4チーム×8グループの32チーム参加から、4チーム×10グループの40チーム参加に拡大された)と重なったのだから異例づくしは当然とも言えるだろう。
その結果が、セントラル集中開催での中2日6連戦。東地区の5グループでは各グループの首位5チーム+2位の上位3チームがグループステージ突破するというフォーマット。そしてグループステージ突破8チームの大本命となるのが、日本勢4チームと韓国勢4チーム。しかし5グループに4チームずつが分かれることになるので、日本勢もしくは韓国勢の片方しか入らないグループが2つ生まれること。なので2位争いはかなり熾烈になるだろうことが予想されるというグループステージとなった。
そんな中でもセレッソが入ったグループJは、中国スーパーリーグ2位の広州(のセカンドチーム)、香港リーグ優勝の傑志、タイプレミアリーグ2位のポートFCと韓国勢の入らない唯一のグループとなったことで、セレッソにとってはグループステージ突破が最低条件。そこを4勝2分の無敗で首位突破に成功したというのは、当然の結果ではあるものの、厳しい条件の中でもミスすることなく実力差を発揮できたのは十分評価に値すると言えるだろう。
■公式戦に出場できた控え組
力の差があったグループステージで収穫だったのは額面通りの結果を残すことができたことだけでなく、この6試合をまるでプレシーズンマッチのような使い方ができたことだろう。タイに行ったメンバーの中で早々に負傷してしまった新井直人と西川潤以外のほとんどのメンバーにプレータイムを与えることができた。
今さらながらクルピ監督のチームの作り方を簡単に触れておくと、主力組と控え組を明確にわけ、キャスティング主義とも言える最適な選手の組み合わせを見つけることでチームを作るという手法を取る。
なので、チームにはそもそもベースとなる戦い方があるわけではなく、選手が変われば戦い方も変わる。これは良いとか悪いとかではなくそういうやり方なのである。
ということは、特に普段プレーしていない控え組が多く出場した試合は当然ながら普段とは全く別のチーム。その試合でチームが機能したかどうかは実際のところあまり意味がなかったりする。
しかしスタメン組が何か問題を抱えている時、うまくいっていない時には、それを解決するために控え組の中から誰かを選ぶ。選手が変われば戦い方が変わるということは、戦い方を変えたい時、解決しなければならない問題を抱えている時は選手を変えるという手段を取りやすいということでもあるからだ。
なので控え組にとって重要なのは、チャンスとも言える何かを変えるタイミングまでひたすら我慢してコンディションを維持しておくこととなる。
とはいえこれは非常に難しい。その結果どうしても例年は何人かの脱落者を出してしまうのだが、今回ACLのグループステージで多くの選手を起用できたということは、こういった面で非常にポジティブなものとなっただろう。選手にとっては練習試合や紅白戦だけではなく公式戦でプレーできることはかなり大きい。
特に今季新加入ながらもプレシーズンで負傷してしまった為田大貴と鳥海晃司は、ここまで一度も公式戦でプレーできていなかったが、ここで公式戦でプレーできたというのはかなり大きな一歩となるはずだ。
■新戦力の台頭
そして今回のグループステージで早速クルピ監督の「何かを変えたい」の期待に添えそうな、チャンスを掴みかけている選手が出てきた。
その選手とは為田大貴。グループステージの初戦ではベンチスタートだったが、最終節ではスターティングメンバーとして出場した。
今回、清武が一貫してトップ下に入ることになり左SHのポジションが空くことになったのだが、おそらくグループステージ開幕時点での序列は、高木俊幸、中島元彦、そして為田という順だっただろう。実際にMD1の広州戦では高木が、MD2の傑志戦では中島が先発。為田の先発は大きくメンバーを入れ替えたMD3まで無かった。
しかしMD1、MD2での高木、中島が今ひとつ決め手に欠くプレーだったことで主力組がプレーしたMD4で先発のチャンスを掴んだのは為田。安定感という面では課題はあるが、自由奔放にアグレッシブなプレーを見せたことがクルピ監督の評価につながったのだろう。
かつてクルピ監督は、2009年第3節栃木SC戦の後の試合終了後コメントで香川真司と柿谷曜一朗に対して、
「香川真司と柿谷曜一朗は非常に対照的なところがありまして、シンジの場合はプロフェッショナルとして責任感が強いあまり、ミスを恐れてしまうことがある。逆に柿谷は責任感がないがゆえに、時として非常に勇気のあるプレーができる。」
と話し、当時の柿谷には責任感を持つことを求めながらも奔放にチャレンジするプレーに対して「勇気のあるプレーができる」として評価し、同時に香川には勇気を持ってチャレンジすることを求めていたことがある。
もちろんその時とは状況も違うし、柿谷と為田はプレーも、当時まだ10代だった選手とここまでJ1、J2で270試合に出場してきた27歳の選手というキャリア面でも全く異なるが、チャレンジする姿勢に対しては評価しているのではないかと思われる。
このままいけばリーグ戦再開後に先発に名を連ねている可能性も十分あるだろう。
■片上げ3バックの復活
ここまでは選手について触れてきたが、戦術面でも変化があった。グループステージ初戦で片上げ3バックでのボール保持が突然復活した。
正直なところ今季のセレッソは迷走していた。
迷走の結果シーズンの半分を経てグループステージ開幕直前に行き着いたのが3-1-4-2。これによりクルピ監督の考える「攻撃的=両SBが高い位置をとる」は実現しやすくなったが、ネガトラおよびセットディフェンス時における守備面の課題も多く、さらに1対1でのドリブル突破では抜群の勝率を誇る坂元からは1対1の機会を減らし、昨季までの2年間でマルチな能力を開花させた松田陸を単なるクロッサーとして扱うというアンバランスさもあった。
そのため今回のACLグループステージ開幕前に考えられた課題は「この6試合で3-1-4-2をどこまでブラッシュアップできるか」だと考えていた。
しかしいざグループステージが開幕すると3試合ぶりに4バックが復活。しかもボール保持時には右SBの松田陸が最終ラインに残る片上げ3バックを披露した。
この片上げ3バックはご存知の通り、昨季までのベースとなっていたボール保持時の形の1つ。それがここにきて突然復活したのである。
個人的にはこの形が今季ここまでの課題を最も解消しやすい、かつ3-1-4-2で見えていた問題点もカバーできやすいものだと思っている。
何もSBが高い位置を取ることだけが重要なことではない。重要なのは高い位置でサイドで幅を取る選手がいること。その選手は両SBである必要はない。片側を坂元にすることで1対1で勝負する機会も増えるし、松田陸は大外以外でもプレーができる幅の広さがある。そして後ろに松田陸がいることでネガトラ時にも対応できるし、セットディフェンスでは4-4-2で構えることもできるからだ。
おそらくこの布陣変更は選手発信によるものだろう。各選手をSBやSHなどのポジションで考えるのではなく、昨季までのように大外レーンで幅を取る選手やビルドアップの出口になる選手などの役割で考えた結果たどりついたものではないかと思われる。そういう意味ではタイで完全に隔離され、キャンプのやり直しに近い状態となったことでたどり着いたと言えるのかもしれない。
そしてこの形を去年やっていた選手だけではなく、今季新加入のチアゴも気に入っている様子がうかがえるのも良い傾向だ。チアゴは高さ、強さがありパスも出せる反面、おそらくスピードには自信がないのだろう。なのでボール保持のときにとなりにSBがいてくれるとネガトラのときにかなり助かる。ACLでは自ら進んで中央に入り、松田陸だけでなく喜田が右SBに入った時も右にいるようにしていたのが印象的だった。
もちろんこのチームの根本的な考え方としてキャスティング主義であり、各自の判断・アイデアがベース。なので力の劣る相手と戦った6試合の様な結果がリーグ再開後もそのまま続くというわけにはいかないだろう。
しかしこの6試合で得たもので、4月以降のリーグ戦2勝4分5敗。直近6試合勝利なしという厳しい状況からは抜け出せる可能性が少しは見えたのではないかと思う。
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