スタジアム | ヨドコウ桜スタジアム | 主審 | 池内 明彦 |
入場者数 | 2,562人 | 副審 | 大川 直也、森川 浩次 |
天候 / 気温 / 湿度 | 晴れ / 27.8℃ / 73% | 第4の審判員 | 柿沼 亨 |
メンバー
C大阪
鳥栖
- 監督
- レヴィー クルピ
- 監督
- 金 明輝
<監督コメント>
<選手コメント>
リーグ戦で11試合勝ちなし、そして5試合連続引き分けの後の敗戦となった試合から中2日で迎える第101回天皇杯全日本サッカー選手権大会 ラウンド16。本拠地ヨドコウ桜スタジアムで行われたセレッソ大阪対サガン鳥栖の一戦は加藤陸次樹のゴールで1-0で勝利。
天皇杯では2019年にラウンド16で、2016年には3回戦で、2013年にはラウンド16で対戦し3連敗を喫していたが、今回は見事に勝利し準々決勝進出を決めた。
■メンバー
セレッソ大阪のスターティングメンバーは、直近のリーグ戦から4人を入れ替え。外れたのは松田陸、丸橋祐介、原川力、坂元達裕で、西尾隆矢、小池裕太、喜田陽、加藤陸次樹が起用された。
ということで布陣は3-4-1-2。松田陸が出場停止だった前々節の仙台戦でも「もしかしたら」という可能性はあったが、天皇杯のここで再び3バックを選択した。前回3バックに手を出した時も書いたが、クルピ監督の手の付け方としては「人を代える」か「人数をかける場所を代える」かのどちらか。前回3バックに手を出した第17節アウェイでの仙台戦では、その時点では失点数は少なかったので「SBを高い位置に上げるため」に3バックにしたと考察したが、今回は「前線を孤立させずにかつ守備を安定させるため」の選択ではないかと考えられる。
一方、サガン鳥栖のスターティングメンバーだが、こちらも直近のリーグ戦から4人を入れ替え。外れたのは島川俊郎、大畑歩夢、白崎凌兵、小屋松知哉で、ファン・ソッコ、中野伸哉選手、高橋義希、酒井宣福が起用された。
島川はその試合で負傷交代しており、白崎は鹿島で天皇杯に出場済み(小泉慶も同じ)、ということでファン・ソッコと高橋が起用される形になったのだろう。そして今回の対戦でセレッソの丸橋祐介が出場しなかったので、高橋義希は冒頭に書いた2013、2016、2019と今回の全ての天皇杯での対戦に出場している唯一の選手となった。
布陣はいつも通りの3-1-4-2。(リーグ戦となればまた違うが)ミッドウィークにカップ戦が入る連戦となった場合、これまで鳥栖はメンバーを大きく入れ替えることが多かったのだが、今回はほぼベストメンバーの主力級を並べてきた。天皇杯を現実的な目標として捉えているのだろう。
■鳥栖の可変システムに対して
3-1-4-2の布陣から左サイドを上げる形でいつものように可変する鳥栖のボール保持に対してセレッソが選択したのは、5-2-3でセットすること。特徴的だったのはトップ下の清武がアンカーの高橋を常に捕まえる形になっていたこと。キックオフ直後の元気な時間は加藤とタガートの2トップがCBにアプローチ行き、清武がアンカーの高橋を捕まえる。そして2トップがCBにアプローチに行かずにセットした状態になっても清武はアンカーの高橋を捕まえる形をとっていた。
おそらく鳥栖はセレッソが3バックでくることも予想していなかっただろう。しかし相手の立ち位置ややり方を見てどうすべきかを見定める。
このあたりは鳥栖がチームとしての戦い方が整備されていることを感じさせる部分だった。
こうして鳥栖はセレッソの守備の1列目を超えてくるのだがそうなるとセレッソの5-2-3の悩みどころが出てくる。
しかしそうなってしまうと、せっかく前線を孤立させないために2トップ+トップ下という構造にしているのにそのトップ下がいなくなってしまうので2トップは孤立気味に。その結果奪ったボールも再び奪い返されるということが増え、鳥栖がボールを保持する時間が長くなっていくことになっていた。
天皇杯なので詳細なスタッツは出ないが、ボール支配率ではかなり鳥栖が上回っていたと思われる。
■セレッソのボール保持と鳥栖の非保持の組み合わせ
こうして立ち上がりからボール保持率では(おそらく)圧倒的に鳥栖が上回る展開となっていたが、セレッソも何度かはボールを保持する時間は作れていた。
それはセレッソのボール保持と鳥栖のボール非保持での狙いとの組み合わせで生まれたものだろう。
これに対して高い位置から守備をスタートさせることが多い鳥栖はIHの樋口が前に出て人数を合わせにいく。
しかしそうなるとセレッソは藤田が最終ラインに下がってさらに数的優位を作るが、これに対しては鳥栖は出ていかない。
なのでセレッソとしてはトランジションのところさえ切り抜ければ後ろでボールをもつことはできていたからだった。
では鳥栖はなぜCBまでは人数を合わせにいくものの下がる藤田にまでは人数を合わせにいかないのか。これは鳥栖の非保持での狙いにある。
鳥栖はボール保持の可変で3バックの左にいる選手が左の大外レーンに移動するので、ボール保持時はほぼ2バックになっている。なのでボールを奪われた時に一気にここに出されてしまうと、例えばこの試合の様に相手が2トップだった時は2対2の状態。一気にカウンターでひっくり返される可能性がある。もちろん高い位置でボールを奪い返してショートカウンターに持ち込むことができれば最高だが、ボールを失った瞬間のネガティブトランジションでプレッシングにいくのはそれを避けるためでもある。
なので3バックが揃い両サイドが下がる時間を作ることができればもうその時点で目的の半分は達成している。なので藤田が下がった時に無理に人数を合わせにいく必要がないのである。
そしてもう1つ、リーグ戦のデータがまとめられているFootballLABで鳥栖のデータを見ると、タックル数は17.6回/試合でリーグ17位とかなり低く、一方でインターセプト数は1.8回/試合でリーグ6位となっている。これはどういうことか。
こういう守り方なので、セレッソが取ったボールより後ろに人数を増やす形は鳥栖にとって許容範囲。後ろに人数をかければかける分当然ながら鳥栖のブロック内の選手は少なくなる。となるとなんの躊躇もなく迎撃型でアタックにいくことができるからだ。
ということでセレッソがある程度ボールを保持する時間も作り、ある程度ボールを運ぶこともあったがチャンスらしいチャンスというのはほとんど作れていない。実際に放ったシュートもブロックの外からのシュートや瞬間的なタイミングで狙わざるを得ないという難易度の高いものばかりだった。
天皇杯3回戦の新潟戦では「新潟は必要以上に後ろに人数をかけないのが好印象」と書いたし、逆にリーグ戦前々節の仙台戦では「仙台は後ろに簡単に人数を増やそうとする」と書いたが、後ろからボールを繋ごうとするならこのボール保持で後ろに人数をかけるかどうかは、大きなポイントとなる。
後ろからボールを繋ぐ、ビルドアップからボールを運ぼうとする形の最大の目的は、ボールと共に時間とスペースを前線に送っていくことである。シュート、もしくはラストパスを出す状況を作るためには、時間とスペースが必要となるからだ。
後ろで作った時間とスペースを順番に前に送っていくために後ろからボールを繋いでいる。
しかしビルドアップが後ろの数的有利をベースにしてしまうとこれは難しくなる。後ろに数的有利を作るということは前は数的不利になっているから当然だろう。
ということは後ろの数的有利をベースにすると、チャンスを作るためにはどこかでボールを受けた選手が無理をしなければいけないが、そう何度も無理ができる選手なんて世界中でもほとんどいない。そして例えば清武は他の選手に比べると無理が効くが、そんなことは相手も知っているのでより警戒する。
ということで鳥栖にとっては想定内で試合は進んでいたと思う。そして一方でセレッソにとっても何とか守れていたので悪い内容ではなかった。これまでの対戦でも書いてきたが鳥栖は基本的にトランジションに頼らない攻撃がメインなので後ろを5枚にしたセレッソが大混乱に陥る場面はそんなに多くはないからである。
ただ、このままいけばゴールに近そうなのは鳥栖、セレッソがゴールを決めるにはどこかで誰かが無理をしてスペシャルなプレーが欲しいといった展開だった。
■ポイントはタガートの落としが短くなったこと
そんな展開の中、試合を動かしたのはセレッソ。34分に加藤のゴールでセレッソが先制する。
セレッソはどこかで誰かのスペシャルなプレーが必要だと書いたが、この得点シーンでそれにあたるのが藤田のヒールでのフリック。これで清武にボールと共に時間とスペースを与えることに成功した。
そしてこのヒールフリックが生まれたのは、タガートから藤田へ落としたパスが少し短かったから。
これによってIHの樋口はもしかしたら藤田のところでボールが奪えるのではないかと感じ藤田に思いっきり食いついた。食いつかなければ樋口は清武のところをカバーしていただろう。
選手のクオリティと少しの運がうまく合わさった素晴らしいゴールだった。
■動かない、スペースをあけない
セレッソが先制後、そして後半に入っても試合のペース自体は変わらず。鳥栖がボールを保持する時間は長いままだったが、鳥栖にゴールは訪れない。
鳥栖の戦い方についてリーグ戦で対戦した時にも「トランジションに頼らない」つまり「偶然に頼らない」サッカーで昨季までのセレッソのサッカーと根本的な考え方は近いと表現したが、昨季までのセレッソがそうだったように、実はこのサッカーは先制されると難しいという側面もある。(だからこそ昨季までのセレッソは前半にとにかく失点しない=先制点を奪われないようになっていた)
実際に今季のリーグ戦の数字を見ると、ここまでの24試合中鳥栖が先制したのは12試合で9勝3分と負けなし。しかし先制点を奪われた試合は9試合で2勝5分5敗。(0-0が3試合)元々サッカー自体が先制点を奪ったチームの勝率が60%を超える競技だが、それにしても先制点を奪われるとガクッと勝率は落ちる。
これはチャンスを作る方法がトランジションに頼らないから。トランジションに頼らないためには相手を効果的に動かす必要があるが、相手が動く最大の要因がボールを奪おうとする行為にある。しかし先制したチームはこのままでも勝てるので、負けているチーム、または同点のチームに比べるとボールを奪いにいく必要はなくなる。なので鳥栖からすれば、先制されると相手を動かしにくくなるからである。
DFラインは動かない、スペースを開けないということを徹底してきた。
となると逆サイド、樋口が落ちる形も時々見せ、ここは小池の対応が中途半端になることも多く危なっかしい感じもあったが、鳥栖の構造は左に比べるとシンプルなので何とか守ることができていた。
セレッソにとっては清武が守備で中盤に戻らないといけないのが厳しくなっていたので納得の人選、タイミングである。
鳥栖は同じポジション同士の入れ替え。昨季は高校2年生ながらレギュラーポジションを掴んでいた中野伸哉選手だが、前回対戦時はユースの大会に出場するために欠場していたように、今季途中から2学年上の昨季の高卒ルーキー大畑がポジションを奪った形になっている。
なのでこの天皇杯が中野伸哉選手が久々の先発、そして途中から大畑が出てきた形になったのだがおそらくこれは守備面でこうなったのだろう。
何分だったか、抜け出したのが誰だったかは忘れたが、試合終盤にセレッソがカウンターでチャンスを迎えそうになった時に大畑が抜群のスピードで戻ってきてしっかり当たってカバーしていた。
ここからの奥埜は(ここまでもだが)本当にすごかった。FWに移動したということはそれまでの役割からいうと、ボールを運ばれたときに中盤をカバーするのは清武に代わって入った中島ということになるのだが、奥埜は中盤のカバーもも担当。前で守備の1列目になり、さらに中盤もカバーするというとんでもない仕事量をこなしていた。
ドゥンガが入ることで鳥栖の2トップは大きい選手が2人並ぶことになるのだが残念ながらあまり効果はなし。前回対戦時に続いて2度目だが、ドゥンガは見たままのサイズの大きさはわかるが何が得意なのかがまだちょっとよくわからなかった。
この終盤の時間帯でセレッソにとって一番の悩みどころは前半にも書いた2CHの脇。奥埜がカバーしていたとはいえどうしてもここが空きやすい場所になるので何度かそこを使われかけたが、最後まで西尾と瀬古が根性でカバー。危なっかしさはあったが、2CHの脇、つまり西尾と瀬古の前にボールを入れられると最終ラインから前に出て何とか潰し続けることができていた。
ということでそのまま試合終了。1-0でセレッソ大阪が逃げ切り第101回天皇杯のベスト8進出が決まった。
■その他
カップ戦とはいえリーグ戦前節の厳しい敗戦からの勝利。さらに内容的にも攻守においてバランスを崩すようなことが少なかったので、サポーターの評価も高い試合になったようだ。
見ていて気持ちいい、セレッソとしては「上手くいった」勝利だったと思う。
ただ、「上手くいかない可能性もある」試合でもあった。
鳥栖にすればきっと想定内で試合を進めていたので、あのタガートからのパスが短くならなければ樋口が食いつくことも藤田の個人技が爆発することもなかったわけで、そうなったときにどちらが勝つ可能性が高かったかと言えば鳥栖だったとは思う。(もちろん別の場面で個人技が爆発する可能性もあるが)
そしてセレッソが先制したことで鳥栖が苦しんだわけだが、もし逆に鳥栖が先制していれば今回の戦い方だとセレッソも同じように、いやそれ以上に苦しんでいた可能性も高い。そして0-0の状態では鳥栖の方がチャンスは多かった。
ただ、今回はうまくいったのだからそれでよし。
リーグ戦でもこういう試合を増やすこと。それができれば、セレッソよりも順位が下のチームの動向をそれほど気にすることなく戦っていけるのではないかと思う。
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