2021年3月29日月曜日

清武弘嗣が語った「迷い」とは


 「ここ3試合、自分自身、色々考えることもあって、少し迷いながらプレーしていたので、今日はその迷いが少しは吹っ切れた試合になったと思います」

2021年3月10日に行われた明治安田生命J1リーグ 第3節、清水エスパルス戦後のキャプテン清武弘嗣のコメントである。


このコメントを受けて「清武ほどのキャリアを持つ選手でも戦い方が変わったことに順応するのに時間がかかった」といった趣旨や、「攻守のバランスをいかにして取るのかという難題に直面していた」といった内容の記事が出ていたが、おそらくそのどちらも清武のいう「迷い」の正体では無いだろう。


■何に迷っていたのか

清武が「迷い」について語ったのはこの時が初めてではない。

シーズン開幕前、宮崎キャンプ中に行われたインタビューでも

「ホントにガラッと変わったので、まだ戦術だったりやり方という部分では自分も迷いながらやってる感はありますし、チームもまだ迷いながらやってるかなというところはあります」

と言及している。

そしてそこから

「ロティーナの時は立ち位置がちゃんと決まってたんで、そこにやっぱボールが自然と入ってきますし、そういう意味で今回監督が変わって、レヴィーは前の選手にはある程度自由を与えてくれる監督なんで、選手の個人の技術で補っていた部分は僕がいた2010年11年頃はそんな感じだったんですけど、今、去年は立ち位置を決めていたんでどっちがいいのかなと迷いながらやってる感はあります。」

と続けた。

【C大阪】キャプテン・清武弘嗣に直撃インタビュー|FOOT×BRAIN 福田正博のキャンプリポート

つまり清武は「どっちがいいのか」を迷っていたのだ。「どっち」とは、クルピのサッカーに順応するためでも、攻守のバランスをいかに取るかではなく、「昨季までのサッカーを残すのか、残さないのか。」のことである。


■清武弘嗣とポジショナルプレー

「どっち」の1つ「昨季までのサッカー」とはポジショナルプレーのことである。

清武がポジショナルプレーを初めて体感したのは他のチームメイトよりも早い、2016年に移籍したセビージャ。

当時のセビージャのサッカーについて「立ち位置や役割が明確に決まっているポジショナルプレーという点では、今の(2020年の)セレッソに通じるところは少なからずあります」と語っている。

しかし一方で「すごく戸惑ったし、ずっと葛藤していた」とも振り返っており、「ドイツではこれまでやってきたプレーである程度うまくいっていたが、スペインでは完全に心を折られる経験をした」と語っている。


今では広く知られるようになった「ポジショナルプレー」だが、そもそも「革新的な新戦術」ではない。「新しいアイデア」というよりもこれまで個々で理解されてきたものが1つにまとめられ「体系化」されたもの。だが「体系化」されたことで、今までは達人たちが個別に判断していたことがその必要がなくなった。その結果一気に広まることとなったというものである。

清武が日本〜ドイツ〜スペインに渡っていったタイミングというのはちょうどポジショナルプレーの考え方が広まっていったその頃。しかしこれまで日本やドイツで個別に判断する達人の1人としてプレーしてきた清武は、体系化された中でプレーするセビージャの選手のプレーに戸惑い「世界にはサッカーがうまい選手がこんなにもいて、サッカーの質そのものもこんなに違うんだ。」と感じることとなったのだろう。


過去にこうした経験をしている分、昨季までの取り組んでいたサッカーにはより手応えを感じていたことが想像できる。

チームにポジショナルプレーが浸透していくにつれ、清武から「『ここにいたらもっとスムーズにボールが回るよな』とか『もっと幅を取った方がいい』というように、サッカーを見る感覚も確実に変わってきた。」や「今のセレッソのやってる方向性は間違っていないということ。今までにないセレッソの形が作れている」といったコメントが出てくる機会も増えていった。

ポジショナルプレーは「決して達人のプレーを制限するものではなく、達人に求められる判断の領域が変わっただけ」だということを身を以て実感したのだろう。


だからこそ「どっちがいいのかなと迷いながらやってる」となったのだろう。


■プレーを変える決断

清武は清水戦の試合後のコメントで「迷い」に続けて

「監督が代わればサッカーも変わるということは、この3試合で自分もすごく感じたこと。今日に関しては、ボールを引き出したり、ボールを触ったり(することを意識した)。ここ3試合、触ることが少なかったので、今日はなるべくボールに関わろうと思って、自由に動いて、今日はサッカーを楽しみました。」

と語っているが、この清水戦から清武のプレーは明らかに変わった。


ポジションは左SHながら右サイドへも出ていくし、CHよりも低い位置でボールを受けはじめる。

ヒートマップが示すエリアは広くなり、ボールタッチ数も増加。そしてパス数も増えた。

開幕から3試合のパス数は39本・30本・43本だったのに対して清水戦以降は59本・74本・62本・52本。

開幕からの3試合が、柏・川崎F・FC東京であることに対し、以降は、清水・横浜FC・大分・湘南。相手が違うからとも言えるがボールに絡む回数は大きく増えていることは間違いない。

「サッカーを楽しみました」とは「迷い」振り払ったということで、「どっちにするか」はひとまずかつての「選手の個人の技術で補う」形に決めたのだ。


この決断の捉え方はどこを見るかによって変わってくるのだろうし、一口で「融合させた」と言ってしまうには違和感がある。

しかし近い目線でいえば、今のチームが前に進むためには、清武の決断は必要なものであったことは間違いない。

チームが進むためには「選手の個人の技術で補う」形が必要だった。


こうした決断を1つずつ下していくことは、大きくチームを変えた今季のセレッソにとっては必要なことなのだろう。

その中の大きな1つが、公式戦4試合目という早い段階で迎えることができたことは、まだまだ続く長いシーズンを戦うにあたってポジティブなことだと思う。


1 件のコメント :

  1. お疲れ様です。
    体系化され、個々のポジションの選手が最低限やらなければならないタスクとチームとしての共通認識ができた事はそれまで1人のスペシャルな選手が怪我で欠けただけで弱体化してしまうチームだったセレッソにとっては大きな変化だったでしょうね。
    交代の選手が出ても高いレベルで組織の意思疎通を維持できるということはゲームコントロールだけでなく選手のローテーションもしやすく怪我や疲労のコントロールもしやすいでしょうし。
    サポーターとしても明らかにやりたいことがやれて試合を支配できたかどうか等もわかりやすく、課題も鮮明だったし個のクオリティが高い選手が前にいればという中での監督交代にサポーターから疑問符が出るのも必然かと。
    クルピはポジショナルプレーや個々のタスク、ゲームプランとして90分をどう使うかみたいなところは論理的というより選手に任せたファジーな要素が強いので、清武としてもロティーナのやり方を維持し続けるには新加入の選手との共通認識の部分であったり、選手だけでは難しい微調整の部分であったりで綻びに繋がることも考えてクルピ式に合わせることを選んだんじゃないかと思います。

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