スタジアム | 日産スタジアム | 主審 | 今村 義朗 |
入場者数 | 4,918人 | 副審 | 西橋 勲、村井 良輔 |
天候 / 気温 / 湿度 | 曇 / 24℃ / 76% | 第4の審判員 | 中村 太 |
メンバー
- 監督
- アンジェ ポステコグルー
- 監督
- ロティーナ
新型コロナウイルス感染予防対策のため、制限付き
(入場者数上限「5000人以下」又は収容率「50%以下」)での試合開催
(入場者数上限「5000人以下」又は収容率「50%以下」)での試合開催
<監督コメント>
横浜F・マリノス:アンジェ・ポステコグルー監督セレッソ大阪:ロティーナ監督
<選手コメント>
横浜F・マリノス:和田拓也、渡辺皓太セレッソ大阪:清武弘嗣、高木俊幸
明治安田生命J1リーグ第16 節、セレッソ大阪は敵地日産スタジアムで昨季のチャンピオンチーム横浜F・マリノスと対戦。
先制点を許す展開となるが清武、高木のゴールで今季初の逆転勝利を挙げた。
■メンバー
横浜F・マリノスの先発メンバーは、前節から7人を入れ替え。朴一圭、實藤、松原、喜田、高野、仲川、前田が外れ、梶川、伊藤、小池、渡辺、和田、ティーラトン、エリキが起用された。小池、ティーラトンは前節がターンオーバーで休みという形だったが、梶川、伊藤、は第7節以来となる先発。和田、渡辺は今季初先発。エリキは第14節以来とはいえ今季8試合目の先発ということで何とか連敗を脱したいという意気込みを感じる。そして布陣は前節同様の3バックだったが、並びが前節の3-3-1-3から3-4-2-1へと変わっていた。
一方セレッソ大阪の先発メンバーは、前節から2人入れ替え。外れたのは丸橋と藤田。片山とデサバトが起用された。
また藤田、柿谷はメンバー外となり、喜田、高木、藤尾がベンチに入っている。
■マルコス・ジュニオールが躍動する3-4-2-1
横浜FMのプレッシング |
しかし、その後4分には横浜FMのチャンス。セレッソのCKを梶川がキャッチしたところから始まる横浜FMの攻撃でマルコス・ジュニオールがハーフスペースでボールを受けそこからのパスでさらに攻撃を加速させるという得意のパターンから、エリキ、ジュニオール・サントスが立て続けにチャンスを迎えるもクロスバーと片山がゴールライン上でヘディングでクリアしたことで何とか回避。
この4分間で両チームの攻撃のスタイルの違いがよくわかる展開で始まる。
ここから前半は横浜FMが押し込む展開へとなっていくのだが、10分ごろまではセレッソにとってもそんなに悪い時間帯ではなかった。
横浜FMのプレッシングを外して敵陣までボールを運ぶ場面もあった。横浜FMがセレッソ陣内に人数をかけてくるためプレッシングを外すと一気に横浜FM陣内には広大なスペースがある。その分セレッソの攻撃も速くなり、また横浜FMもボールを奪い返せば早くセレッソ陣内にボールを運んでくるので少し展開としてはいつもよりも速いかもしれないが、ボールを失う場所は自分たちの前だったし、横浜FMが攻め込んでくるのも自分たちの前での出来事だったからである。
しかし10分を過ぎた頃からセレッソはほとんど敵陣にまでボールを運べなくなっていく。
そうなった理由の1つはSBからの縦パスを潰される場面が増えたから。
縦パスを急がされては潰される |
試合立ち上がりの坂元が右サイドを出て行った場面はこれと同じ様な形だったのでチームとしての狙いがあっての形だったかとは思うが、横浜FMのプレスを受けCBからSB、SBからクサビという形でリズムが一定化してしまっていたのでFWのところで潰される場面が増えていったのだろう。
そう言った意味では徐々に横浜FMに試合のリズムも支配され始めていたと言っても良いのかもしれない。
そしてもう1つが自分たちの前にボールがあるという状況を作れていない場面も増えていたからだろう。
ハーフスペースで躍動するマルコス・ジュニオール |
CBーSB、CHーSHの四角形の中央でボールを受けティーラトンを走らせるパスや、ティーラトンにボールが入った時にハーフスペースの裏に抜け出す動きで横浜FMの攻撃を加速させていた。セレッソはマルコス・ジュニオールにCHが背中を取られる場面が何度もあった。
昨季もハーフスペースのMFーDFライン間でボールを受け、そこからのパスで攻撃を加速させたり、さらにハーフスペースの背後に抜け出すプレーなどでチームの攻撃を牽引、さらにはフィニッシュまでこなすという抜群のプレーを見せていたマルコス・ジュニオール。MVPこそ仲川に譲ったが、優勝の最大の貢献者と言っても良いぐらいのプレーを見せていた。今季もここまで9ゴールと抜群の活躍を見せている。
しかし前節は3-3-1-3の布陣をとり、前田、ジュニオール・サントス、仲川の3トップの下でプレーしたものの、特に前田はスプリントで勝負するタイプなので大外で幅を取る様なプレーができず中に入って来てしまう。つまりマルコス・ジュニオールが最も活きるハーフスペースを前田が最初から埋めてしまう場面が多かった。その結果マルコス・ジュニオールはCHの位置まで下がってプレーするという場面が増えてしまっていたのだ。
しかし今節は布陣を3-4-2-1に変更。前線の枚数を減らし、幅はWBのティーラトンに取らせたことでマルコス・ジュニオールがプレーできるスペースが生まれた。これまでの横浜FMのSBが内側に入りという形ではないが、遠藤渓太が移籍し幅を取るWGがいなくなった問題を解決する手段の1つにはなるんじゃないかと感じさせた。
前半の応急処置 |
19分に清武のヘディングから都倉にサイドを抜け出させ、折り返しを奥埜がという場面を作ったが、畠中と梶川に守られる。
奥埜は畠中にシャツを引っ張られていたが、PKはとってもらえなかった。
この場面の後セレッソはほとんどボールを運べず。
25分にはエリキのシュートがクロスバーを叩き、29分には再びエリキのシュートを瀬古がスライディングでブロック。その後のマルコス・ジュニオールのシュートはキム・ジンヒョンがキャッチするが、横浜FMにとっては自分たちのスタイルである「敵陣でサッカーをする」ということが実践できていたと言える。
■クロス対応
横浜FMが「敵陣でサッカーをする」状態に持ち込むことが出来ていたが、スコアは0-0のまま。セレッソが守りきっていた。セレッソの4-4-2のゾーンディフェンスは中を閉めてスペースを消す。安易に飛び込まない。慌てない。今季結果を残していることでこのあたりはよく知られる様になったところだろう。
この試合の前半でマリノスは14本のシュートを放っているが、ここまでの試合でも何度も書いているのと同じ様にそのほとんどはDFが前にいる状態でのもの。なのでシュートコースは制限され、8本の枠内シュートのうち5本はブロック、3本はキム・ジンヒョンがセーブしている。
そして中は閉められているのでサイドからというのがここ最近の相手の戦い方。札幌も浦和も横浜FCも、そしてこの試合の横浜FMもそこを狙ってきた。
しかしこの試合の前までのセレッソの失点内訳を見ると、クロスからの失点は0。この試合で後半に今季初めてクロスから失点してしまうのだが、もちろんリーグ最少。ちなみに昨季もシーズンを通してのクロスからの失点は3でリーグ最少だった。
クロスからの失点が少ない理由として最初に出てくるのはおそらく「ヨニッチ、瀬古(木本)がいるから」ということになるのだろうが、もちろんそれだけではない。
クロスに対して、SBがどこにポジションを取るか、CBがどこにポジションを取るか。さらにはCHはどこにポジションを取るかまでが明確に決まっていて、選手がそれを実行しているから。明確なのでブレがない。押し込まれても慌てないのも明確だからである。
浦和戦だったかでも書いたが、相手のグラウンダーのクロスに対してCBやCHが先に触る場面が多いと思うが、それは偶然ではなく必然なのだ。
■ 今季初となるクロスからの失点
後半は立ち上がりからセレッソがボールを運ぶ場面が続き、前半の終盤とは全く異なる形で始まるのだが、52分にマルコス・ジュニオールのクロスをエリキがヘディングで合わせ、横浜FMが先制する。先にも書いた様にこれが今季初めてのクロスからの失点である。
この失点した直後に、ヨニッチ、瀬古、デサバトの3人が向かい合って「どうなってるんだ?」という形で手を広げているのだが、彼らにしてみれば空いているはずのない場所からヘディングを決められたのでこういうリアクションになっているのだろう。
失点につながった場面 |
しかし木本はその前、マルコス・ジュニオールへのパスを出した渡辺のところに清武を超えてアプローチに出てしまった。
ここからパスを受けたマルコス・ジュニオールは実はオフサイドだったのだがフラッグが上がらず。
その分木本の戻りも遅れてしまい、途中で自分が埋めるべき場所に戻っていないことに気づいた木本は慌てて戻るが間に合わず。戻りきる前にピンポイントで合わされてしまった。
渡辺には清武の方が近い位置にいたのに木本がそれを超えて出ていく必要があったのか。そしてオフサイドポジションにいたとはいえフラッグが上がっていない状況だったのにボールウォッチャーになってしまい木本の戻れない穴をカバーできなかったこと。その2つによって生まれた失点である。
そこにピンポイントで合わせたマルコス・ジュニオールの精度が高かったこともあるが、先ほど書いた様に明確に決まっているセレッソにとってはやるべきことが出来なかったミスである。
■改善された後半
失点してしまったとはいえ後半の立ち上がりからボールを運ぶ場面が増えていたセレッソ。後半の修正 |
清武がビルドアップの出口になる |
これにより前半はSBにボールが入った瞬間に前に出てきていたWBは出て来れなくなり、さらにビルドアップの時はボールサイドのSHをマンツーマン気味に捕まえにきていた伊藤は出て来れなくなった。
3バックとはいえCBは流石にここまでついていくことはできない。
これでボールを失う場所が改善され、ボールを運べる様になった。
55分には中央突破から奥埜、57分には清武のFKから都倉と立て続けに1点もののチャンスを迎えるが決められなかった。
しかし58分、今度は決める。
坂元のパスを受けた清武が放ったミドルレンジのループシュートは全てを無力化する様に鮮やかな軌道を描きサイドネットを揺らした。
見事なシュートによるスーパーゴールだったが、あそこで清武がフリーでボールを受けることができるのはセレッソが設計した必然の形。何度も書いている右から左へとボールが動いた時に中に入った左SHがフリーでボールを受けることができるのと同じ現象である。
坂元のヘディング、都倉のポスト、松田のパス、坂元のパスと少ないタッチでボールが動いていったが、彼らのポジショニング、位置関係によって横浜FMのDFはピン留めされるので、遅れて左から中に入ってくる清武はフリーになるのだ。
そしてこの場面はキム・ジンヒョンからのキックで始まっている。
横浜FMは「敵陣でサッカーをする」というのがチームのコンセプトで、それこそが勝利への道、アタッキングサッカーだという哲学のもとでプレーしようとするが、セレッソは対照的にピッチの縦横全てを使ってプレーしようとする。
なので前線からアプローチにいくこともあれば、自陣に戻って守ることもする。自陣で引いて守りすぎるとカウンターは難しくなるものだが、それをカバーするために各自ポジションをとってボールを前進させる術を持ち、一番上手い選手がフリーになる様な仕組みを持っている。
これは両チームの考え方、哲学の部分なので当然ながらその2つに優劣は無いが、そんな哲学の違いを感じさせるゴールだった。
■DOGSO案件
65分、清武からのパスを受けた片山が最終ラインを抜けだそうとしたところで伊藤に倒される。この伊藤のファールはDOGSO(決定的な得点機会の阻止)の要件を満たしていたので一発レッド。伊藤は退場となる。
DOGSO(決定的な得点機会の阻止)についてはJリーグジャッジリプレイの番組内で何度も取り上げられているが、 「反則とゴールとの距離」「プレーの方向」「ボールをキープできる、または、コントロールできる可能性」「守備側競技者の位置と数」によって決まる。
この場面では、「敵陣のペナルティエリアの少し外側」で「ゴール方向に抜け出した片山」が「ボールはコントロール下にあり」で「片山とGKの間には横浜FMのDFは誰もいなかった」状況で、伊藤は足を引っ掛けて片山を倒したので一発レッド。決定的な得点機会を阻止するためのファールなのでその程度は関係ない。どんなファールであってもファールを犯した時点でレッドカードとなるプレーである。
あと例えば「チアゴ・マルティンスはめちゃくちゃ速いのでもしかしたら追いついていたかも」というのも、DOGSO(決定的な得点機会の阻止)に当たるかどうかで考慮するのは「守備側競技者の位置と数」なので関係ない。逆にいえばめちゃくちゃ守備の下手な選手だったとしてもその選手が片山とGKの間にいれば伊藤のファールはレッドカードではなくイエローカードになる。
そしてこの場面も下がってきた清武が片山を前に出して走らせてからのプレー。
片山は前半の様にビルドアップの出してとしては丸橋と比較すると物足りない部分はある。しかしこうして使われる方、前に出て行くプレーをさせると、スピードもありパワフルなのでかなりのストロングとなる。
66分〜 |
横浜FMは両WBが下がり4バックに。前線はジュニオール・サントスとエリキの2トップにマルコス・ジュニオールがトップ下といった布陣になる。
■ピッチの縦横、そして90分間
72分〜 |
どちらもポジションはそのままだった。
横浜FMには退場者が出たのでセレッソは数的有利となるが特に慌てる様なことはしない。
先ほどセレッソは「ピッチの縦横全てを使ってプレーしようとする」と書いたが、それともう1つある。試合を90分間全体で考えている。試合は誰かの気まぐれで突然終了することもないし、例えばテニスの様に何点奪えば終わるというものでもない。90分間を終えた時に相手より1点でも多くとっていれば勝ちというルールになっている。
なので同点であれば慌ててプレーする必要はなく、無理に攻める必要も、試合のテンポも上げる必要もないと考えている。
84分〜 |
フレッシュな前線で迫ってくる横浜FMと スペースを使ってボールを運ぶセレッソ。どちらもチャンスを作っていたが、試合を決めたのはセレッソ。
86分、坂元の必殺技でティーラトンを交わすと右足でクロス。それを高木が流し込んだ。
チーム全体で前向きでフリーでボールを受ける様に設計している清武同様に、坂元もドリブルで勝負できる様にチーム全体で設計しているので、ほとんどの試合でドリブルで勝負する場面を作ることができている。そして坂元はその場面で結果を残すことができているのがチームの結果にも繋がっている。
試合はそのまま終了。1-2でセレッソ大阪は今季初の逆転勝ち。そして連勝を5に伸ばした。
■その他
途中で書いた様に対称的な哲学を持つ両チームの戦いとなったが、難しい前半だったがきっちりと対応して乗り切り、後半失点したものの哲学に則り戦い方を徹底することで逆転勝ちに結びつけるという会心の試合だったと思う。もちろん失点はしない方が良かったが、勝ちきるところまで結びつけることができたのはチームの成長を感じさせる。
次は中2日での神戸戦。神戸が出場するACLの関係で前倒しになったにもかかわらず、肝心のACLは延期になったという何かモヤモヤする過密日程だが、連勝をさらに伸ばしていきたいところである。
あと、途中でクロス対応について書いたが、おそらくセレッソの2点目、坂元の突破からのクロスの場面はセレッソのクロス対応なら防ぐことができたと思う。セレッソの基準でいえば、あの場面での扇原のポジショニングはおかしかった。
セレッソの守備の堅さは選手の質ももちろん関係しているのだろうが、それ以上にこのあたりのルールが決まっていること、そしてそのルールをチーム全員が徹底することによって成り立っているんだと思う。
いつも分かりやすい記事をありがとうございます。
返信削除楽しく読ませていただいております。
クロスに対する木本のポジショニングミスですが、たしかルヴァン初戦の松本山雅戦でも、
スローインに対して飛び込みすぎ→結果クロスに対するポジショニング修正が遅れ失点、というシーンがあったように思うのですが、
木本はボランチでの出番が少ない分、やはりそういったポジショニングの微調整はまだまだといった感じなのでしょうか?
コメントありがとうございます。
削除ミスは誰にだってあるのですが、やはり2つのポジションをやるのは難しい部分もあるでしょうね。
分析ありがとうございます。清武がなぜ後半からボールをキープできるようになったかわかりました。
返信削除前半を見ていて思ったのは、これから涼しくなって今年は交替5人可ということを考えたら、前線や中盤の選手を替えてプレスされ続けて先に失点して負ける試合が出てくるのじゃないかと危惧しています。いくらロティーナの守備システムが万全でもあれだけ押し込まれてかつヨニッチ瀬古木本が連戦で出続けて疲労するとミスや偶然で失点してしまう確率が増えるのではないでしょうか。あと川崎戦でも思ったのですが、トランジション回数を減らす試合をしているせいか攻守の切り替えが速いチームと対戦すると、速さに判断力が対応しきれなくなってミスが生じるのかなとも思いました。
神戸や鹿島には最近勝てないので勝ってほしいんですけど、どちらも対策をかなり練ってきそうなので大変な試合が続きそうです。
コメントありがとうございます。
削除プレスはもちろんボール保持を阻害する要因にもなりますが、動いてくれる分スペースもできるので実は完全に撤退して守られる方が嫌なんじゃないかなと思ったりもします。